ゴミ捨て場に行け

昨日の模様替えでため込んだごみを捨てた

ごみ袋五つにもなってしまった

一年で一つ、五つ目はおまけのようなものだ

仮の根城での生活も終わりを迎えようとしている


そう広くはないゴミ捨て場には、屋根がついている

トタンの屋根で、雨の日には心地よい音を奏でる

透明であることを義務付けられた袋の中には、

いつの日のものか、もはや誰のものだったかもわからないような

紙屑が詰め込まれている

いらないものは捨ててしまえ、

ちんからホイと呪文を唱えて、子猫がそそくさと歩いていた

後ろを親猫が追いかけるところまで見た

ひとつ学びを得た、ごみ捨て場は捨てる場所、

何もかもを捨ててしまうには、うってつけの場所なのだ


今晩は蒸し暑い夜になるらしい

窓を開けて眠るのには適さない季節だ

道路工事の音が遠く聞こえて、眠っている間にも移ろう世間


一夜明けて、僕は六つ目のごみ袋に押し込まれて

昨日捨てたごみ袋の横に並べられている

それもそのはず、捨てるに足る理由があったということだ

異議も異論も、反論の余地もないものだ


昨日はごみ収集車がこなかったらしい

僕が捨てたものは、僕が捨てた時と同じように鎮座している

僕より先輩にあたるためか、僕よりも余程落ち着き払っていた

これが大人の余裕というやつか、なんともうらやましいかぎり

その姿勢を横目に見ながら、できるだけ同じように振る舞う

気丈に、気高く

たとえごみ捨て場に並んだ我が身であっても

また蒸し暑い夜はやってくるのだ


僕が悩んで結局捨てられなかった少しリッチな百人一首は

十数番までしか思い出に残っていない

僕が先にここにきて、彼が後から来るのであれば

再開するチャンスはいずれ訪れるだろう


それまでは、記憶に残っている十数番だけを反芻しよう

物質は、記憶を呼び起こすためのきっかけにすぎないのだ

袋五つ分の同胞が傍らにいる

寝苦しい夜が何度訪れようと、

手元にかき集めたものとは

地獄の果てまでランデブー

何一つ恐れることなどないものさ

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