屋根裏のミノムシn号
いまだ! ここを仮の住まいとする
気づかれぬように辛抱だ
できるだけ物音を立てず、存在感を出さず、
息を殺して自分を殺して
ここにいることを気づかれないように振る舞おう
雨風をしのげるだけの屋根があればいい
腹を満たすためだけの食事があればいい、味は問わない
布の一つでもあれば、身を暖めるには十分だ
何より、暖かさを求めてしまうことが愚かしいことなのだ
分不相応な、醜い行いなのだ
ただ多くは求めずに、できるだけ苦しみを減らして
そうやって、細々と屋根と尾根の隙間で凍えて生きているのが相応しい
ここから抜け出そうという物言い自体、許されるものではない
それらは、もっと優雅な食生活を送る幸運な人たちにだけ許される行いだ
そして、そんな安易な解決策で終わらせてしまうこと自体冒涜的だ
今までの頑張りの何もかもを無為にしてしまうし、何も得ぬままに終わってしまう
生まれは重要だ、自己責任で今この屋根裏部屋に引きこもっている
圧倒的な、抗い難い不条理によって悪夢が入場チケットの代わりになる
僕とは違う、僕は幸せ者だ
この小屋をみつけたのは僕の手柄だ
この小屋を選んだのは僕の選択だ
この小屋に住み着いたのは他ならぬ僕であるし、
この小屋に甘んじて、ここを半ば終の住処のように見做したのも僕だ
これから先の生活は、この屋根裏の一角から送ることになる
それは誰かに気づかれて、追い出されるまでのほんのひと時の話かもしれないが
誰かに怒られて、この場所から追い出されるまでは僕はここにいるだろう
多少肌寒いが、それくらいのほうが肌に合う
郵便物もまともに届かなくなってしまった
新聞の契約のひとつでもしていれば、愛想良くしてもらえるだろうか
誤配達の荷物はいつまでも処理されないままだ
僕あての手紙よりも前住人宛ての手紙の方が多く届いて、
まだこの場所が僕のものになりきっていないように感じてしまう
事実、それは否定しきれない現実だ
僕はあくまで、誰かがきっと住んでいただろうこの場所に、
たまたま合間ができたのをいいことに、すべりこんで
勝手に住み着いている浮浪者に他ならない
ここは決して僕のための場所ではないのだ
それでも、誰にも気づかれないように振る舞っていれば
まだ余りある人生の残り時間を多少溶かすことはできるはずだ
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