鼻もちならない研究室
真っ暗な研究室に案内されて、
僕はちょっぴりの後悔とちょっぴりの期待をポケットの中に忍ばす
研究室には、真っ先に目を引くような煌々と照らされた試験管
中には小さく萎んだ人型の生き物が眠るように漂っている
それが何かを問うまでもなく、説明は始まって
僕は「へぇそうですか」「はいはい聞いたことあります」
「それはすごいですね」「その発想はなかったです」などなど
相手もさして気持ちよくないだろうに、職業柄か
あるいはそうプログラムをされているのか、話さずにはいられない様子だ
試験管の中にいるのは、数十数年前に猛威を振るったウィルスの罹患者らしい
人類は長い年月とたぐいまれなる協力をもって
さもウィルスに打ち勝ったかのように思えたが、
蓋を開けてみればこんなところに、無くなったはずのウィルスの一端が残っている
僕は顎まで下げたマスクを鼻の頭まで戻す
よく見れば、僕を案内する彼は全身防護服に身を包んでいる
僕が何を言おうと、あるいはどうリアクションしようと、
彼の説明は止まらないし、内容が変わることはない
話を聞いている風体は変えないままに、研究室をぐるりと見まわす
暗闇にも目が慣れてきて、
今まで見えなかったものが見えるようになる
床に転がっているのは、どうやら人間のようだ
一人や二人で済まない、悪趣味な服装に身を包んだ十数人が、
試験中に落とした消しゴムみたいに転がっている
僕は彼らを踏まないように気を付けながら試験管に近づいた
彼らに触れてしまえば、僕もまた穢れてしまうように感じた
その懸念はどうやら正しいようで、うっかり彼らに触れた袖口は
朽ちてこけた頬のように萎れてもう戻ることはなかった
試験管横のボタンを押すと
試験管から水が抜けて、その中の生き物が露出した
僕が場所を替わろうかと提案すると、その生き物は首を横に振った
曰く、隣の試験管が空いているとのこと
また身綺麗にしてから再び訪れることを約束して、
今日のところはお暇することにした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます