気球大地

蝶を捕まえて地面に埋めた

しばらく様子を見て、何事もなかったので、

また何匹か捕まえて、同じところに埋めた

どのくらいの量ならば許容されるのか、その境界線を知りたかった

どの種類の蝶ならば許されるのか

どこに埋めるなら問題ないのか

一日何匹までなら許されて

何をしたら問題が起きるのか

逐次ノートに記録を付けながら、毎日足繁く通った


どうやら僕は慎重すぎるきらいがあるようで

どう蝶を埋めても何も起きなかった

もう少し思い切ってもよいのかもしれない

最初に始めた量が少なすぎたのだ

ただ連続した記録の価値を損なわないためにも、

もはや、少しずつ、少しずつ条件を変えて、

境界値を求めに行くほかない

どれだけ蝶を埋めてもびくともしない大地をみて

むこう十数年は安泰だろうとたかをくくる


そんなある日、いつものようにバケツに蝶とスコップを入れて

目的の場所を訪れようとしたとき、

僕は地響きを全身に感じた

何事かと空を見上げて、この揺れの発信源は

僕がひたすら蝶を埋め続けたこの大地にあるのだと理解した


あまりにも柔らかい地面は、蝶を埋めるのに向いていた

近くに蝶を捕まえるのに適した花畑もあって

蝶を埋めるために存在している場所だと錯覚していた


大地は大きな地響きともに、浮かび上がった

砂の一粒、土塊の一つ

あとは大きな影だけを落としながら、空に飛び立った

僕はそれに追いすがるようなみっともないようなことはしなかった

蝶を埋め続けた効果がようやく表れたことに新鮮な驚きがあった


ただ飛び去っていく大地を見上げる他なかった

他にできることがあるはずもない

しばらくして、見えなくなって、

僕はバケツに放り込んだ蝶の亡骸を持て余していた

他にこの蝶たちを埋める当てはない

自分の家の庭にでも埋めておこうか

どうにも気乗りしないが、それしか取りうる選択肢がないのも事実


また新しい場所を探せばいいと人は言うが、

どうにもそれは億劫だ

油断しきった体は、もう今更動くように命じても動かない

ルーチンワークに飼い慣らされている


とぼとぼと帰路につく

罪悪感はゆく当てもないままに、僕の中をぐるぐる漂っている

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