エンプティタウンの古老人
ふらりと訪れたエンプティタウンには、
しゃっくりを続けている老人がいた
彼はきっかり三秒おきにしゃっくりを繰り返して、
残りの二秒間は何事もなかったように生活を送っている
他の人の生活とは明らかに効率が悪く、
無為なことに時間を溶かしてしまっている
彼はさもそれを気にしていないかのように振る舞っているが
内心おだやかでないことを僕は知っている
彼は人前では平然としゃっくりを繰り返し、
指摘されても笑顔で応対しているが、
ひとたび裏路地に飛び込んでしまえば、
己が喉を焼き千切らんとする勢いでかきむしり
原因のすべてを取り除こうとする
僕が見たことで付け加えるならば、
彼はしゃっくり止め師にも高い金を払って
仕事の依頼をしていた
効果が表れていないことは火を見るよりも明らかである
この老人の性質の悪いところは、
終わらないしゃっくりを他人に伝染す計画を立てているところだ
己一つで完結していれば、せめて他人に迷惑をかけることもなかったのに
なんとも愚かなことに、周りにいる人をも巻き添えにしようとするのだ
自分自身が変わることができないのであれば、
他の人をも自分と同じ位置にまで引きずり降ろそうとする
彼は裏路地を抜けたところにアリジゴクの巣を張っていて
うっかりと立ち入ってしまった善良なる市民を捕まえて
騙し食ってしまおうと画策しているのだ
僕は彼の生態が気になって、遠目に彼のことを観察している
人通りが少なかろうとも、人の目の一つでもあれば
彼は至極おとなしいものだ
温和な老人を振る舞って、社会に溶け込もうと必死になっている
ただひとたび薄皮一枚めくれば、本性は美しいエゴに満ちている
僕はその落差が気に入って、彼のことを観察している
彼のしゃっくりの音を聞くことにも慣れた
僕が彼に影響を受けてしまうことは避けたいため、
遠目に見つめるにとどめている
何より、そうしている間だけ、
自分のしゃっくりのことは気にしなくて済む
それが僕の生活において、何よりも肝要なことなのだ
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