植物星人のいる道

人が通りかかるたびに、上を向いて媚びるような表情を見せる

相手に応じて、哀れみを抱くような表情であったり

あるいは、同情を引くような表情であったり


楽しみはなくて、怒りは稀にあって、

冴えたふりをして、自分がいかにうまく立ち振る舞っているかを示す

誰も彼にもその作戦は見抜かれていて、

そのことに気づけていないのは、唯一、彼ひとりだけだ


彼は植物星人

この世で最も愚かな生き物の一つ


自分たったひとりでは、すぐに枯れて萎んでしまう

そのくせ、通りかかる人々に媚びて、

彼らの生気を少しでもむしり取ろうとする

そんな愚かしい生き物の一つだ


その道に彼がいるとのうわさがひとたび流れればそれまでだ

人通りはぱたりと瞬く間に止んでしまうだろう

それでも、たまに何も知らない人が迷い込む

または、自暴自棄になって己を捨てに来た人が迷い込む

共依存であることを望むものも訪れるが、

彼の正体を知るなり、ある朝には立ち去ってしまう


彼はそのたびに根がきしむ音を聞く

それでも生きていくためには、

寿命の残り時間をなんとか消化するためには

縋って生きていくしかないのだ

それが彼の愚かさを際立てる生態のひとつだ


存在し続けるためには、存在を見止められる必要がある

自分を鏡に映して、あるいは網膜の裏側を通して

自給自足できるだけの人は案外多くて、

それがいかに惰性であろうとも、

何者の存在も付属部品にしかなりえない


道筋にただ一人であろうとも、

多少の恐れは抱きながらも、前に進み続けるのだろう


反面、彼の生態は至極単純だ

彼は彼自身を顧みることができないから、

彼自身がどのような姿をしていて、

何のために存在していて、どこに向かおうとするのか

まったくもって見当がつかない


だから、通りかかる人を捕まえて尋ねてまわるのだ

そうすることでしか、姿かたちをとらえることができないのだ

水を撒いてもらえれば万々歳

一方、草葉を踏みにじられでもしたら、

その時は何事もなかったかのように立ち直っても

凝固した血のかたまりが血管をふさいでいる

いつしか致命傷になるような傷


道すがら、歩く人々に縋る

できるだけ朗らかで、明るく愉快な表情で

彼はそうやって存在していくしかやり方を知らない


彼は植物星人、

この世で最も愚かな生き物の一つ

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