故郷を離れるために
背伸びしてばかり生きている
故郷を離れるために
住み慣れた部屋は
手を伸ばせば何物にも届くような間取りは
あまりにも居心地が良すぎた
はやくここを離れなくてはならない
チュートリアルで手に入れた初期装備は、
中途半端に思い出が詰まってしまっていて捨てるに足りない
できるだけ小さな箱に押し込める
できるだけ小さな部屋を圧迫しないように
ふらりと模様替えをたしなんでいる折に思い出す
それでも、未だ、捨てるに及ばない
ひとつずつ、少しずつでもかまわない
細胞を入れ替えて、いつかは全く別の生き物に成り代わる計画
進捗はどうやら芳しくないとの報告
常々メールには「緊急」「重要」の文字が躍る
内容は変わり映えしないので、フィルタで脳の外へ送り出す
不必要なことにかまけているような時間も余裕も、もはや食べつくしてしまった
遺された時間が限られているのであればなおいっそう
僕は僕に対する奉仕者でなくてはならない
費やした時間より、生み出した時間だけが正義を語るのだ
茹で窯の前で生殺しの日々を送っている
一思いに飛び込んでしまえば楽だろうに
じうじうと蒸し暑い、それでも
頬に垂れる汗を煩わしく思うくらいの
そんな余裕を演じている
シークレットブーツが必要なくなるような生活を
誰に媚びないでも生きていけるくらいの物差しを
薬に頼らなくても済むだけの骨組みを
そして、飽きるくらいの幸福を
自分を後生大事にしていても、得るものなどなにもない
自棄的な勇気を煮詰めて煮詰めて、考えようとする理性を殺して
世の大半は棘だらけ、何を恐れるものがあるというのか
日差しがいかに眩しかろうとも、
戦果がいかに乏しかろうとも、
この街を出ていくところからすべては始まるのだ
はやくここを離れなくては
足から伸びた太い太い根が
地面に絡みついて離れなくなる前に
はやくどこか遠くへ行かなくては
忌まわしき故郷が草木に覆われて、
退路がどこにも見えなくなってしまう前に
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