ロボット工場の見学

「散れ」と言われるのとともに、白い服を着た集団は血走った目で方々へ走り出した

置いていかれた僕は、一番汚い白色の跡を追いかけた


資源は有限だから、みな我先にとかっさらっていく

持っているかばんには容量に限界があるが、髪の毛を使って、手足を使って

可能な限り自分に結び付けて、自分の所有を主張して

そうやって、この場にあるありとあらゆるものに値札をつけて回る


白い服を着た集団は似通った形、背格好に見えるけれど

容量の良さという部分でどうにも差異があるようで

瞬く間に己を飾り付けているアイデンティティ豊かな奴もいれば

何にも満たされず、ありつけずにいる僕のような落ちこぼれもいる


部屋の隅っこの、誰にも見つかっていないような

あるいは皆が目にしていながらも、いらないものの烙印を押したような

そんな愚図をあつめて、見よう見まねで体にペタペタと貼る

未完成な僕らは、外付けのパーツで己を飾ることで完成を目指す

出遅れた僕は、必要十分を満たすような何物もなく、

不格好なパレードで、己の醜態をさらしてまわるだけだ


「集まれ」と言われるのとともに、白い服を着た集団は様々な面持ちで中心に集った

己の存在に誇りを抱く者もいれば、満ち足りたことに気づかず悠々としている者もいる

どこで見つけてきたのか、七色の螺子を腰に巻いた者もいれば、

ただの螺子を工夫して細工して、誰も及ばぬような創造性を見せる者もいる


順に並んで、品評されていく

それは外に出ていく宿命

社会の商品棚に陳列されるがゆえに、避けては通れない道

僕はできるだけ順番があとになるように

誰彼や某の後ろに隠れてやりすごす

このほんのひとときに、せめて格好はつくように

床を満たす箔液を体にペタペタと塗って、せめて色は隠れるように


番号を呼ぶ声が近づいてきている

僕にはそれが恐ろしくてたまらない

爪を噛む回数が増えた、かさぶたは剥がさずにはいられない

髪をいじる回数が増えた、ごまかしようのない焦りは

僕の意思に反して、僕から外に出ていこうとしている

せめて、ひもは手に入れておくべきだった

何にでも使える、便利な紐だ

まずは手を縛っておくのだ、せめて何も、余計なことはしないようにしよう

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