つまようじの塔

牢屋にあいた、おじさんの顔くらいの大きさの穴から、

毎日すこしだけ、つまようじが支給される

うっかり牢獄に閉じ込められてしまってから何か月たっただろう

毎日すこしずつ、支給されるつまようじをもって

すこしずつ、己のための城を作り上げていく


この城の出来によっては、ここから出ることも夢ではないらしい

どこからか迷い込んだ蜂と蜘蛛の巣に聞いた話だ

僕にはその言葉しか寄る辺ないから

ただその言葉だけを信じて、つまようじを積み上げていく


何か月かいると、相応に形らしいものが見えてくる

それは星であったり、月であったりと

どうにもロマンチックなものに見えてくる

よく見ると細い細い木の棒で構築された木偶で

できるだけ目が暗闇に順応しないよう、麻痺した感覚を大事に守っている

自分だけの尺度を大事にしながら、

正しい使い方だと妄信して、つまようじの塔をつないでいく


隣人がいる

隣人にも同様に、決まった時間につまようじが支給される

どうにも、そのつまようじの量が、僕よりも多く見えてしまう

すこしだけ、そんな日もあれば二倍三倍に感じる日もある

必然的につまようじの塔の出来を左右して、

僕は隣の牢屋を見て、僕の作った陳腐な塔を見て、

己の不甲斐なさに焦り、憤り、たまに泣いてみせたりする


すこしでも同情を引ければ、僕に対する待遇も一つや二つ改善するだろうと

そんな淡い期待を抱いて、つまようじの塔に組み込んでいく

不純物を孕んだ塔は、結局誰かの目線を気にしていて、

僕らしさなんてものはどこにも見当たらない


隣人はきっと、僕より先にここを出ていくのだろう

あまりにもかけ離れた立派な塔と、僕のチンケでみじめな塔

誰から見てもその魅力の差は一目瞭然で

誰が見ても悩む時間は必要ないだろう

同じだけの材料、同じだけの時間を費やして作られたはずなのに

どうにも見劣りしてしまうのだ


あるいは、僕の足元に転がったたくさんのつまようじのせいだろうか

あるいは、僕が僕を刺すために使った、赤らんだつまようじのせいだろうか

支給されたつまようじは、いつも僕の手から零れ落ちていく

ただでさえ広がった差が、さらに埋めようのない溝を作って

隣人関係にあるはずの距離感が、物理よりも遠く感じる


それでも日々差し込まれるつまようじの量は変わらず

僕が僕の塔を作るために費やすつまようじの量はもっと少ない


いつしか隣人の顔をうかがい知ることもできなくなる

それまでも、それ以降も、ずっと言いようのない後悔に苛まれ続けるのだ

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