じゃあ、遠慮なく。
ぜぇぜぇと、息を荒げながらへたり込む男子三人と、少し離れた場所で少し怯えた感じの女子二人、その足下には最初に加減を間違えて倒れたままの哀れな男子。
「な、何なんだよ、オマエ」
さっきから何回も同じ質問ばかりで辟易としながら、答える。
「
「そんなことじゃねぇ」とか「何者なのアイツ」、「永瀬の幼馴染って」とかぶつぶつ言われても。だからさっきから幼馴染だって言ってんじゃん。
結局、阿保が急に倒れたのをきっかけに、血気盛んな男子諸君は暴力行為に踏み切ってきた。
オラオラパンチを躱し、鞄を凶器代わりに振り回してくる奴の足を払ったり。仲間を呼ぼうと思ったのかスマホを操作しようとした女子二人には手加減して威圧スキルを飛ばしておいたら、産まれての子鹿のように足を震わせていた。
「なぁ、アンタ等さ、俺達もう帰りたいんだけど?」
苦々しい顔を向けられても、ね。
荒事はあまり好きじゃ無いけど、苦手とは思っていない。そもそも、こんな戯れ合いなんて荒事の内に入らないし。
ちゃんと相手を殺せる用意をし悪意を持った集団とやり合う事が身近だったから、かなり最初のうちに苛つきを通り越して馬鹿らしくなってしまった。
「ハァ...もう行こう、咲」
「うん」と小さく頷き返す幼馴染の手を引いて、歩き出す。チラチラと後ろを振り返る幼馴染に「クラスメイト?」と聞くと、違うらしい。
同じ学校の不良グループの一部で、咲の友達にちょっかいを掛け始めたから、関わらないで欲しいと伝えていたらしい。俺の知っている幼馴染らしくて思わずため息が出た。
「ちょっと!真面目な話なの!」
持っていた鞄を軽くぶつけて抗議してくる幼馴染に、伝える。
「咲の言う事は分かるけど、それで、はい分かりましたって言うような奴等にはとても見えなかったけど?」
「それは」とか「でも」とかぶつぶつ言ってるけど、間違いないと思うよ?今回の件で、次からは咲と友達の二人が標的になるか、咲が標的になるか。
「もうちょっと冷静になって行動しような?誰かに相談するとか、もっと味方を増やすとかさ」
思い当たることがあるのか、黙る正義感の塊のような幼馴染を見て「変わらないな」と思ってしまった。
暫く歩くと、咲に幼馴染の家に着いたので、「じゃあな」と別れて二軒隣りの自分家に入った。
路地裏の突き当たりにガラの悪い人間達が集まって騒いでいた。その集団のリーダーであろう男の前で、数時間前に一人の男子高校生相手に手も足も出なかった男子達が頭を下げて懇願していた。
「永瀬咲と、その幼馴染の男をめちゃくちゃにして欲しい」と。男子達は、さっきの二人が泣き叫ぶ姿を想像して薄暗くニヤついている。
リーダーの男が、然程興味はなさそうだが女を好きにするのも良いな、と仲間達に声を掛けたその時、
「じゃあ、遠慮なく」
そう聞こえたと思ったら、急に辺りが真っ暗、右も左も上も下も判別出来ない程の暗闇の中に居た。
遠くからか、直ぐ後ろからか、気味の悪い叫び声のようなモノが響く。気づいた時には手足それぞれが鎖のような何かに繋がれていて、足元から何かが身体中を這い廻る、沢山の何かが。
叫ぼうにも声が出ずに、喉からヒューヒューと音が鳴る。止まらない恐怖の連続に、遂には意識が突然落ちるそな瞬間、脳内に声が響いた。
「俺達に関わるな、違えたら...」
二日後の朝、地下鉄のホームで幼馴染から友達に絡んでいた男子達が揃って転校したと聞かされた。どうやらしょうもない軽犯罪をして捕まり、更生を目的とした全寮制の学校に送られたとか、どうとか。
昨日の朝の地元ニュースでは、不良グループが一斉に検挙されたと報道されていた。
まぁ、ちょっとやり過ぎたかもしれん。
今回も先に車両に乗って振り返ると、ホームから満面の笑顔で手を振ってくる幼馴染に、口パクで「またな」と返しておいた。
学校に着く頃に、「バーカとは何だこの野郎」とお怒りのメールが届いて笑った。
素晴らしきかな人生は。 時雨(旧ぞのじ) @nizzon
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