偶には一緒に帰ろうよ。
「止め!答案用紙を裏返して後ろの席から前に渡すように」
チャイムと共に、試験監督の教員が声を張る。順々に渡された答案用紙の束に自分のものを重ねて前の席のクラスメイトに渡せば、ガヤガヤと教室内が賑やかになり始めた。
期末考査の最終日、最後のテストが終わり皆の顔に笑顔が咲いていく。明日は土曜で休み、二週間後には夏休みが控え、今学期最後のイベントが終わったからだ。
高二の夏は忙しいけど、それを踏まえても夏休みという楽しい期間が間も無く訪れるのは確か。あちこちで、夏休みのスケジュールや約束事を話す声が飛び交う。このテストの結果次第では表情を曇らせるヤツも何人かは出るかも知れないが。
「夏休みもーすぐだなー」
友人の一人が近くに来て、さっき空いた俺の前の席に座って話し掛けてくる。「そーだな」から始まり、お互いに何か予定でも立てるか、と他愛もない話を掛け合っていると、友人と同じタイミングでスマホの通知音が鳴った。
「日帰りクラス旅行?」
クラス内のグループチャットにそんな告知と出欠の有無の返答要請があげられていた。友人が目線で「どうする?」と聞いてくるので、「日時次第かな?」と答えた。
それから、ホームルームを経て帰路に着く頃には大体の概要が決まりだし、出欠の返信の通知が増えていっていた。
「日帰りで隣の県で海水浴?」
偶々講義の無い日で家に居た大学生の姉が聞き返してきた。
「そう。クラスの行事?みたいなのだって」
冷蔵庫から麦茶のボトルを出して、グラスに注ぎながら返事をする。
「そう、青春ねぇ」とケラケラ笑いながら渡したグラスを受け取る姉に、「青春か?」と返してソファに座る。
姉曰く、そんな付き合いなんて高二の夏までじゃない、来年は進路の兼ね合いでみんなで遊ぶことなんか出来ないからね、と。
そんなもんか、と麦茶を飲み干してから自室に向かった。
スマホを覗けば、クラスの大半が参加するようだ。個別で友人から再度「どうする?」と来ていたので、少し考えたのちに「行く」と返信して、クラスチャットにも打つと友人も同じタイミングで打ったようだ。
八月最初の金曜日、カレンダーアプリに〈クラス海水浴〉と予定を打ち込んでおく。バイトの予定と、家族旅行という名の祖父母の住む田舎への帰省。少しずつ、何も予定の無い日がなくなっていく。
そして八月の第二週の週末、〈幼馴染と花火大会〉という予定が入ったのは、その日の夕食後だった。
翌朝、地下鉄のホームで幼馴染と偶然会った。
「昨日ぶり?直接会うのは久しぶり?」
確かに久しぶりに顔を見たが、昨日話したからか、同じ感想だった。
電車が到着するまで、会話が弾む。高校は別々だから、お互いの近況とか、夏休みの事とか、進路の事とか。
「へぇ、クラスで海水浴かぁ」
幼馴染のクラスではクラスメイト全員での行事は無いみたいだったので、「仲の良いクラスだね」とか感想を言っていた。
お互い反対方向の電車に乗るので、先に来た俺が車両に乗り込む。振り返って幼馴染を見ると何となく、寂しそうな顔をした後に小さく手を振ってきたので、こちらも小さく振って返す。
数日後、少しずつテストの返却が始まった。取り敢えず、補講は免れたようで安心する。
教室内は少しずつ、夏が始まろうと熱が高まりだしていたのが印象的に映った。
バイト先から帰る途中、通りかかったコンビニの駐車場で何やら騒ぐ集団がいた。
同じくらいの歳頃の男女が、一人の女子に突っかかっている。やれ「うるさい」とか「でしゃばるな」とか「ウザい」とか。ご近所迷惑な奴等だなぁとか思いながら横を通り過ぎようとした時、見知った顔があったので、つい足を止めて顔を向けてしまった。
ついでに、お節介にも声を掛けてしまう。
「
取り敢えず、ニヤニヤとやり取りを撮影していた阿保のスマホを、こっそりと
ちょっと威力調整を間違えて、阿保がぶっ倒れたのはしょうがない。
しょうがないったらしょうがない。
少し苛々してるからな、今。
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