第3話 1人目 相談

「私、大学1年生の『綾辻 小夜璃』といいます。最近身の回りで不思議なことが起こりすぎて、心霊とかに詳しいサークルの先輩にこの事務所の話を聞いて来てみました。突然来てしまってすいませんでした。」


依頼者である綾辻さんが来てから、詩乃さんは早々と旭さんを追い返した。

綾辻さんを自分がさっきまで寝ていたソファの向かいにあるソファに促し、今はイキイキした表情で綾辻さんとの会話を楽しんでいる。

僕は3人分のコーヒーを淹れ、詩乃さんの隣に座った。


「確かにここは普通の探偵事務所とは少し、いや全く違う。基本的には心霊や呪いの類の相談を受けている事務所だ。」

さっきまで姉を避けてた人とは思えない、毅然とした態度で詩乃さんは話をしている。


「私一人暮らしをしてるんですけど、電気が付いたり消えたり、テレビが付いたり消えたり、いきなりトイレの水が流れたりと奇妙なことが増えたんです。元々私は幽霊なんか信じていなかったのですが、流石に怖くて。」

綾辻さんは声を震わせながら今起こっていることを話してくれた。

女性の一人暮らしで怖かっただろう。


そんな彼女を目の前にしてもイキイキした表情をしている詩乃さんの足を小突く。

流石に詩乃さんでも悪いと思ったのか、神妙な顔に切り替え、これからについて話をし始めた。

「とりあえず私が自宅を見てやろう。どんな霊がついているかで報酬の金額を決める。もちろん騙したりはしないから安心しろ。」

もう少しその高圧的な喋り方はどうにかならないかと思ったが、それがこの仕事をするにあたり重要であることを僕は知っているため何も言えない。


僕は詩乃さんの話を細くするかのように話しかける。

「場合によっては100万円以上の高額になることもあります。こちらも危険がつきものですのでそこはご了承下さい。一度報酬の金額が分かってから実際に依頼するか決めてもらっても構いませんので。」

100万円という言葉に一瞬驚いた表情をしたが、早く自分の置かれている状況を解決したいのだろう、しっかりと首を縦に振った。


「じゃあ早速お前の家を見せてもらってもいいか?」

「今からですか?家を片付けていないので、明日とかにできませんか?」

呪われているかもしれないというのになんと呑気な。と思ったが口には出さなかった。

「家の中まで入らなくてもいい。外から見るだけである程度わかるからな。今日はどうやって来た?歩きで来たなら私たちの車に乗って案内を頼む。」

詩乃さんはそういうと、奥の部屋に入り薄手の上着を持ってきた。心霊や呪いの類と相対する時は、なるべく肌を見せない方がいいんだとか。

オフィスデスクの上に置いてあった車の鍵を取って僕に投げて渡す。


「僕も当然行かなきゃなんですね。」


僕の問いかけに詩乃さんは答えることなく、綾辻さんを連れて事務所を出て行った。


先にも話したように、僕は他の人より霊が取り憑きやすい体質だから霊がいそうなところには行きたくないのだが。

免許を持っていない詩乃さんの代わりに僕が運転するしかない。


「少しは待つということができないんですか?」


僕は急いでデスクに置いている自分のバックを取り、詩乃さんと綾辻さんの後を追った。

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