第4話 1人目 ピアス

「この車、ちょっと臭いな。」

詩乃さんが文句を言っている。

「すいませんね。この間、詩乃さんが酔っ払って『この車は呪われている!!』とか言って、塩とお酒を車内に振りかけまくった後の臭いが残っているんですよ。1日!!かけて掃除したんですけどね。」

僕は嫌味ったらしく言ったが、詩乃さんは気にすることもなく、

「じゃあまだ掃除が足りていないな。どうせ今日も心霊の近くに行くんだから、きちんと掃除しとけよ。」


立派なパワハラだと思う。


とりあえず詩乃さんを無視して、僕は不安で少し息が乱れている綾辻さんに話しかけた。

「詩乃さんはこんな人だけど、心霊のことだけは頼りになるので安心してください。そんなに手強くない心霊だったら、この後すぐに除霊もできますので。」


詩乃さんは依頼者への配慮というものが足りない。

だからこそ僕がフォローする必要があるのだ。

僕の言葉を聞いて、強がりか本当に安心したのか分からないが、綾辻さんは覚悟を決めた表情で道案内を続けた。



「次の信号を右に曲がってから・・・」

「200Mぐらい先の左側か」

詩乃さんは綾辻さんの道案内を遮った。

「ここからでも分かる不穏な空気だ。九州ナンバーワン心霊スポットって言われても不思議じゃない。これ以上近づくと九重が憑かれてしまう可能性があるから一旦事務所に戻るぞ。お前は今日はホテルに泊まった方がいい。」

詩乃さんはそう言うと、ポケットから黒いワイヤレスイヤホンを取り出すと、目を瞑って黙ってしまった。


詩乃さんはすぐにでも泣きそうな様子だった。




事務所に着くと、詩乃さんは無言のまま事務所の奥のプライベートルームに入って行った。

綾辻さんもとりあえず事務所に来たのだが、どうしていいかわからない状況で、僕も事務所のソファに座るよう促すことしかできなかった。


「私どうしたらいいんだろう。」

僕にはどうもできない。だから微力ながら解決方法を頭の中で考えてみた。

「とりあえずはホテルか実家か友達の家に止まることってできませんか?詩乃さんも今解決方法を探してくれてるはずだろうし。」

僕が助言できるのはこの程度。


沈黙が続く。


10分だろうか、体感では30分くらいに感じた。


その沈黙の中、綾辻さんがぼそっと呟く。


「一人になりたくないです。一人になるの怖いです。どうしたらいいですか。」


今にも泣きそうな、いや話終わる頃には泣き始めていた。

これが僕が好意を持っている女性のセリフであったらどれだけ良かっただろうか。

現実は今憑かれている女性と、かなり憑かれやすい男の関係。

そして依頼主と探偵事務所のバイトの関係。


綾辻さんに返す言葉が見つからずまた沈黙を作っていた時に、突然事務所の奥の扉が勢いよく開いた。

詩乃さんがプライベートルームから出て来たのだ。


「あれだけの怨霊がついてるってことは、何かしらの物が呪われている可能性が高い。最近心霊スポットとかそれらしいところで物を持って帰ったりしなかったか?」


「・・・大学のサークルで心霊スポットに行きました。だけど何かを持って帰ったりはしてないです。ただ関係はないかもしれないですが、その心霊スポットにお気に入りにしていたピアスの片方を落としてきてしまいました。」

綾辻さんは涙を拭き、そう答えた。

その直後、詩乃さんはニヤッとした顔をした。

「そのピアスが要因だな。特にお気に入りにしていたのなら尚更だ。」


僕と綾辻さんは顔を見合わせた。

心霊スポットに落としてきただけなのに、綾辻さんの家が呪われている理由が分からなかったからだ。

「なんで落としてきたピアスが呪われる理由になるんですか?」

僕が詩乃さんに尋ねると、詩乃さんは淡々と説明を始めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

霊媒師〜柊詩乃のお仕事〜 らら @shintube

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ