第4話
俺は、セシリアが抱える重圧を間近で見ていた。俺ができるのは、セシリアの隣にいることだけだった。だが、俺が傍にいることで、セシリアの顔から少しずつ緊張が消えていくのを俺は感じていた。俺の魅了スキルが、彼女の心に安らぎを与えているようだった。セシリアは以前よりも穏やかな表情を見せることが増え、時折、俺に微笑みかけることさえあった。
「今日は、訓練が早く終わった」
ある日の夕食時、セシリアが珍しく自分から口を開いた。
「へえ、そりゃよかったな」
俺が相槌を打つと、セシリアは少しだけ口元を緩めた。
「ああ。おかげで書類も片付いた」
完璧主義という重圧から解放されたセシリアは、本来持っていた騎士としての才能をより一層発揮し始めた。彼女の指揮は的確で、部下からの信頼も厚い。以前は表情の硬かった兵士たちも、セシリアの指揮の下、生き生きと職務に取り組んでいるように見えた。
「セシリア、最近、なんか変わったな」
俺が率直にそう言うと、セシリアは俺の方を向いた。
「変わった、だと?」
「ああ。前より、なんか柔らかくなったっていうか。前はいつもピリピリしてたからな」
セシリアは少し考え込むように視線を落とし、それからゆっくりと俺を見つめ返した。その目には、以前のような疲弊した色はなく、強い光が宿っていた。
「……私は騎士団を辞める」
俺は驚き、セシリアの顔を見た。
「は?いきなりどうしたんだよ」
「お前と出会って、私は変わった。騎士としての理想と現実の狭間で、常に苦しんでいた。だが、お前と共に過ごす中で、私の心は軽くなった」
セシリアの言葉は、静かで、しかし確固たる決意に満ちていた。
「騎士としての道を極めることも大切だ。だが、私はお前と共にこの世界で生きていきたい。お前は……私を、必要としてくれるか?」
セシリアは俺の手をそっと握り、俺の目を見つめる。その瞳には、俺への深い信頼と、新たな人生への希望が宿っていた。俺は、セシリアの決意を真っ直ぐに受け止めた。
「ああ、もちろん。お前がいてくれるなら、そりゃ助かる。よろしくな、セシリア」
俺がそう言うと、セシリアは初めて心からの笑みを見せた。それは、俺が今まで見たことのない、心底からの安堵と喜びの表情だった。
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