第5話

セシリアが騎士団を辞める決意をした翌朝、俺たちは王都の冒険者ギルドへと向かった。ギルドの建物は、騎士団宿舎とは違う、もっと自由で活気のある雰囲気をまとっていた。大きな木の扉を開けると、中は数名の冒険者がちらほらといるくらいで、それほど混雑している様子はなかった。壁には依頼が貼り出されている。


「すげえな、ここ」


俺は思わず声を上げた。


「ここが、貴様と私が生きていく場所となる。慣れておけ」


セシリアが、俺の隣で淡々と言った。彼女の顔には、騎士団にいた頃の重圧はもう見られない。


カウンターに近づくと、明るい声が聞こえてきた。


「はい、次のご依頼の方!」


カウンターの向こうで、満面の笑みを浮かべている女性がいた。艶やかな黒髪、そして、王都に来た初日に俺に向けられた熱い視線。間違いない、あの美人だ。


「まさか、ここで再会するとはな」


俺がそう呟いた瞬間、彼女は俺に気づいたようで、目を丸くした。そして、ぱっと表情を輝かせた。


「あら、あなた!まさか、こんなところでまたお会いできるなんて!覚えていてくださったんですね!」


彼女はカウンター越しに、俺に満面の笑みを向けている。その笑顔は、まるで俺だけに向けられているように感じられた。


「ごめんなさい、ちょっと驚いちゃって…!でも、本当にまた会えるなんて思ってなくて!」


彼女は頬を少し赤らめながらも、笑顔を崩さずに俺たちを迎えた。


「いらっしゃいませ!冒険者登録ですか?」


明るく元気な受付嬢として働いていた彼女に、俺とセシリアは案内されて登録を進めることになった。


「君、ここ、いつもこんなに空いてるのか?」


俺が聞くと、彼女は笑顔で答えた。


「いえ!今日はたまたま落ち着いているだけですよ!普段はもっとたくさんの冒険者で賑わっているんですから!」


その屈託のない笑顔が、健太の心にじんわりと染み渡る。


「それで、パーティー名はもう決まってますか?」


彼女が尋ねる。


「パーティー名…そうだな、どうする? セシリア」


俺はセシリアに視線を向けた。セシリアは少し考え、ゆっくりと口を開いた。


「……『白銀の剣』。これで頼む」


俺はセシリアらしい、シンプルで力強い名前に納得した。


「ああ、それでいこうぜ!」


俺がそう言うと、彼女は笑顔で頷き、登録用紙にペンを走らせた。


「承知いたしました!それでは、あなた様の冒険者登録証をお作りしますね。少々お待ちください……えっと、健太さんと、セシリアさん。それから……私の名前はリリアです!よろしくお願いしますね!」


彼女は満面の笑みでそう告げた。


リリア、か。

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