第3話 二人目の犠牲者

「ま、まさか……嘘だろ?」


 すぐに部屋に戻り、さっきのニュースをネットでも確認してみると顔写真も出ていたが、どうも殺されたのはあの久保山で間違いなさそうであった。


 自宅であるアパートの前で、何者かに銃で三発撃たれて、ほぼ即死だったと……。


 ほ、本当にやりやがったのか?


 あいつが? 偶然ではないのか?


「ん? で、電話……? この番号は……はい」


『やあ。さっきメールを送ったんだが、確認したかい?』


「か、確認って……あんた、まさか本当に?」


『君が依頼したんだろう? お金もちゃんと振り込んでいたし。まさか、冗談だったとは言わせないぞ』


 いやいや、あんなの本気だと思うやついるの?



『あと三人だな。それとも他に殺したい奴はいるのか?』


「あ、えっと……」


 どうしよう? 殺したいと思っていた奴はもう何人もいるんだが、いざ本気となると躊躇してしまう。


 お、俺も殺人犯なのかこれって?


『前も言ったと思うが、君も立派な共犯だ。君の依頼だからね。私も君も殺人犯という十字架は一生背負うことになるよ』


「そ、そんな……」


 事の重大性を突き付けられて、崩れ落ちそうになる。


 俺が殺人犯……手を下してはいないが、依頼をしたということは共犯……で、でもまさか本気だとは。



『あと三人だな。できる限り早く始末するよ。それでは』


「あ、ちょっと……」


 とだけ言って、男は電話を切ってしまった。


 残りは三人……もし、本当に実行されたら、俺は……いや、あいつらは俺をイジメて人生を滅茶苦茶にした奴らだぞ。


 そうだよ、自業自得じゃないか。


 むしろざまぁないんじゃないか? こんなことで人生を終わらされるなんて。しかも、たったの千五百円だぞ。


 あいつらの命なんてそんなものだったのさ。


 そう必死に言い聞かせると、だんだんと心が落ち着いてきた。


 ふ、ふふ……俺もすっかり闇落ちしたって事かな。



「ん……大野か。はい」


『よう、和彦。しばらく』


「ああ。どうした?」


 次の日、俺の中学時代の数少ない友人である大野直哉が電話をしてきたので、出る。


『お前、ニュースを見たか?』


「え? ニュースって?」


『テニス部に久保山って居ただろ? 一個上の。マジでビックリしたよなあ。銃でいきなり撃たれるなんてな』


「あ、ああ……やっぱり、そうだったんだ」


 今でも信じられなかったが、こいつが言うなら間違いないだろう。


 大野も高校を卒業した後、職を転々としているが、今は警備会社で働いている。


 だからこの近くで起きた事件に関しては詳細な情報が入っているのかもしれない。




『さすがに銃を持っているとなると、俺もキツイかな……警備員って警棒くらいしか持ってないし』


「そ、そうか。あんまり無理はするなよ。命が大事だしな」


『だよな。お前も気をつけろよ。あ、そうそう。この前さ……』


 その後、他愛もない世間話をした後、しばらくぶりの友達との会話が終わる。


 こんなニートの俺でも付き合ってくれている大野には感謝しかないが、これもいつまで続くか……。



「それにしても、これは夢じゃないのか?」


 何度頬を抓っても目は覚めないし、ネットやテレビでもニュースを確認してみたが、やっぱり殺されたのは久保山で間違いみたいだ。


 顔も以前の面影はあるしな。あの復讐代行のおっさんが何処の誰か知らんが、グッジョブとしか言えん。「ふふ、ざまーないぜ。死んじまったら終わりだな」


 ようやくそんな気分になれ、罪悪感もなくなってきた。


 俺をイジメていたから、こんなことになるんだよバーカ。


 残りの三人も戦々恐々と……いや、別にあの四人も友達同士なわけじゃないし、連絡を取っているわけでもないか。


 次は誰かなーって思いながら、スマホでゲームして寝ころび、いつものように自室で夜更かししていったのであった。




「ぎゃあああああーーーーーーーーーっ!!」


「――っ!? な、なんだ今の声は?」


「女の悲鳴……あっちの方から、聞こえたな」


 深夜、配管工事をしていた作業員と交通誘導員たちが女性の絶叫を聞きつけて、悲鳴がした方へ駆け寄る。

 

「どうしたっ!? うっ……こ、これは……」




「ん……? ふわああ……な、なんだ? 電話……はい」


『やあ。今、ちょっといいかね?』


「ん……あんたは……どうしたんですか、こんな朝早く」


『朝早くって、もう十一時だぞ』


 ああ、もうそんな時間か。昼夜逆転生活が続いているからな……。


『二人目も始末した。後は、二人だな』


「え? も、もうですか? 早いですね」


『まあな。ちょっと手こずったが、誰かはいずれわかると思う。では、また何かあったら、連絡してくれ』


「あ、ちょっと」


 とだけ告げて、おっさんは電話を切ってしまった。


 おいおい、もう二人目をやっちゃったわけ? 本当なら凄いな。


 このおっさん、もしかしてシリアルキラーって奴?


 殺し自体を楽しんでいるみたいな……まあ、だとしたら怖いけど、奴らを殺してくれるなら、何でもいいか。




「今日はお袋はパートか……」


 誰もいないリビングに行き、テレビを点けてみると、ちょうど昼のニュースが始まった。


『今日、〇〇県〇×市の河川敷で女性の遺体が発見され、警察は事件の可能性が高いと見て捜査をしています。亡くなったのは、駒木サラさん(27)で、財布から現金から抜き取られており、体には暴行を受けた後が……』


「おいおい、今度は駒木かよ……」


 暴行を受けた上に河川敷に遺棄されるとは、随分とエグイ死に方をしたもんだ。


 マジで駒木なのかの確認はしないといけないが、同姓同名で年齢も同じだってなら、ほぼ確実だろう。




「しかし、ここまでして、警察に目を付けられたりしないのかね」


 今って防犯カメラがあちこちにあるっていうから、夜中とはいえ、何処かで姿が映っていると思うんだが……あのおっさんが逮捕されたら俺も?


(いやいや、俺は別に何も……でも、依頼をしただけなんて言い訳はさすがに……)


 通らないよな? 急に不安になってきたが、いいんだよ。


 悪いのはあいつらなんだし、俺は無職の無敵の人じゃんか。


 失うものなんか今さら、何もないんだしさ……警察なんかこわいわけないだろ。


 深呼吸しながらそう言い聞かせて、駒木が殺されたニュースを見てニヤニヤしていたのであった。

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