第2話 依頼即決行

「うーん、取り敢えず非通知設定にしてかけてみようかなあ」


 凄い悩んだが、変な番号にかけるのは躊躇いがある。


 しかし、試しにちょっとだけかけてみるか……。



「…………」


『はい、復讐代行の代表だ』


「あ、えっと……今、チャットで相談した者なんですが……」


『おお、君か。よくかけてきてくれたね』


 電話をかけると、中年くらいのおっさんが気さくな口調でかけてきたが、やっぱり怪しい電話だったのか。


『イジメっ子に復讐したいという事だが、もう少し詳しくそいつらの事を聞きたい。イジメの内容はさっきので全てか?』


「全てではないですけど、あんまり思い出したくないというか……」


『それはわかるが、こちらの恨みの内容をもう少し精査したいのでな。辛いかもしれないが、もっと聞かせてくれ。イジメっ子の個人情報も含めてだ』


「わ、わかりました」


 そう急かされたので、記憶に残っている限りのことをこのおっさんに話してみる。


 俺は何をやっているんだろうな……恐らくイタズラなんだろうが、こんな見知らぬおっさんに話したところで、何も解決はしないだろうに。




『ふむ、だいたいわかった。話の内容にも矛盾はないので、真実と判断していいだろう。それで、君はそいつらに何をしてほしいんだ?』


「あー、そうですね。できれば死んでほしいんですけど」


『OK。そいつら四人の殺害だな』


 OKって随分とあっさりと言いやがって。


 ハッタリにしてもよく言えたもんだよ。


『一つ断っておくが、殺害する場合、私も君も警察に逮捕されないように細心の注意を払うが、それでもバレて警察に逮捕されるリスクや失敗の恐れもある。そうなったら、君も共犯になって警察に逮捕されるが、その覚悟はあるかい?』


「え……ああ、はい」


『ほう。警察に逮捕されても良いと? 言っておくが、四人も殺すと死刑は確実だが、最悪そうなっても良いんだね?』


「俺、無職で独身ですので、失うものもないですし」


 本気で言っているとは思えないが、仮にそうだったとしても構うもんか。


 どうせ無敵の人だしな。




『相手の電話番号や住所などはわかるかい?』


「あー、すみません……昔のは名簿や連絡網でわかるんですけど、今の住所はちょっと……」


 流石にわからないし、今更連絡も取りたくないので、知りたくもない。実家暮らしの奴もいるんだろうけど、


『なら、昔のでも構わない。それで今のそいつらの現住所も調べられるからね』


「わ、わかりました。ちょっと待ってください」



『わかった。では、依頼料だが……ちょっと計算してみると……』


 やっぱり、金とるんだな。


 当然だが、いくら吹っ掛けてくるつもりなのやら。こっちは無職で金もロクにないので、何百万、何千万請求されても取りようがないぜ。


 相手が詐欺師でも、暇潰しにはなったかな。個人情報を勝手に教えちまったが、罪悪感はゼロだね。


『一人当たり、千五百円で合計六千円だな』


「はい?」


 一瞬、耳を疑ったが、いくらだって?


『聞こえなかったか? 六千円だ。それでそいつらの始末をしてやる』


「は、はは……冗談きついですよ……」


 殺しの依頼料が六千円ってさあ……詐欺確定やん、そんなの。



『依頼料は内容や相手を精査したうえで請求する。そいつらの命は君にとって千五百円の価値はあるのか?』


「ないですよ。一円の価値もありゃしないです」


 一円どころか犬のクソ以下だよ、奴らの命なんぞ。


『だったら、その位だな。殺害をするとなると、手間や交通費も少々かかるので、その費用分だ。残りのはこっちで独自に回収させてもらう』


 独自回収ってどういう事? そいつらから直接取るってなら、強盗になるんじゃ……いや、いいか。




『依頼料の振り込みは後でメールで送る。それに六千円を振り込み次第、そいつらを始末しよう。言っておくが、振り込んだら最後。後戻りは出来ないぞ。最悪の事態として君も死刑になる覚悟はあるんだな?』


「は、はい……」


『ふむ。ではメールアドレスを教えてくれるか?』


 と言ってきたので、フリメールのアドレスを教え、男との電話が終わる。


 念を押してきたが、いくら何でも六千円で四人殺害を引き受ける馬鹿などいる訳ねえ。


 何千万円でもリスク多いってのによ……。




「はあ……あ、メールが着ているじゃん。なになに……この口座に月末までに振り込むようにか……」


 電話を切って間もなく、振込先の口座を記したメールが届いたが、メガバンクの普通預金口座やんけ。


 どうするかな……イタズラでも話を聞いてくれた礼に六千円くらいは振り込んでやるかな。


 無職ではあるが、この前バイトした時の貯金も残っているから、そのくらいは払えるので、さっさと振り込むことにした。




「遂に振り込んじまったよ」


 翌日、銀行へと行き、指定された口座に六千円を振り込んでしまい、今になって後悔の念が滲み出てきた。


 六千円はキツイな……一か月のスマホ代に相当するからな。


 後で追加料金をせがんできても、断固として拒否してやる。


 話を聞いてくれた礼にこれだけは払っておいてやるが、これ以上は無理。追加料金を請求したら、ブロックしてやるから覚悟しておけ。


 そう心に誓い、自転車に乗って家路へと向かっていった。




 トントン。


「ん?」


「あなた。久保山徹さん?」


「あ? そうだけど……――っ?」


 バン、バンっ!




「お、おいっ! 何だ今の音は? ひ、人が倒れているぞっ!」


 ピーポーピーポーっ!




「ふわあ……もうこんな時間か。ん? 何かメール着ているな。復讐代行業……この前のか」


 案の定、味を占めて追加料金を請求してきたみたいだが、もう無視してやる。


 どんだけがめついんだよ、全くさ……。


「んで、いくら寄こせってんだ? もう払える金はねえぜ。ん?」


『依頼された四人のうちの一人を始末した。残りは三人だ』


「…………」


 一人を始末したって……殺しちゃったって事?


 ウケるわ。仕事はえーな。


 本当なら、どれだけ良いかと思いながら、ベッドに入り、眠りに就いたのであった。




「うーん……ちょっとトイレ」


 既に昼過ぎになっていたが、ようやく目を覚まして、トイレへと向かう。


 今は毎日が日曜日なので、曜日の感覚も何もありゃしないけどな。


『事件はこちらの路上で起きました』


「あら、ウチの近くじゃない。怖いわねえ」


「ん?」


 リビングの前を通ると、今日はパートが休みのお袋がお茶を飲みながら、テレビでお昼のニュースを見ていた。



『昨晩、〇〇県××市の路上で、会社員の久保山徹さん(28)が何者かに銃で撃たれ、その後、救急車で搬送されたのち、死亡が確認されました。久保山さんは会社の帰りに襲われたと見られ、財布から現金が抜き取られていたことから……』


「えっ!?」


 アナウンサーが発した内容を見て、まさかと思い、テレビを見てみる。


「久保山徹……え? 嘘だろ?」


「どうしたの?」


「え……あ、いや……昔、テニス部の先輩で同じ名前の人がいて……」


「まあ、そうなの。じゃあ、その子が殺されたのかしらね」


「ど、どうかな……」


 テロップを見ると、確かにそう表示されていたが、同姓同名……いや、年齢も同じだし、まさか……。


(ぐ、偶然だよな?)


 本当に久保山だったら嬉しいが、同姓同名の別人の可能性もあるし、まさか本当にあの代行業者が殺したなんてことは……はは……


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