第4話 三人目も始末したが……

「ん? また大野か……はい」


『おお、和彦。お前、ニュース見たか?』


「ニュース? 何の?」


『知らないのか? 中学の時、同じクラスに駒木って女子居ただろ。あいつ、昨晩亡くなったんだよ。殺されたみたいでさ……』


「へ、へえ……そうなんだ」


 夜に大野から電話が着て、早速駒木が殺された件について話してきたが、同級生が犠牲になったという事で流石にショックを隠せなかったようだ。


 かくいう俺はざまぁ一色なんだけど、ちょっと抑えておこう。




『実はさ。駒木の遺体を発見したの俺の同僚なんだよ。ちょうど、深夜に工事現場で交通誘導している時に悲鳴が聞こえたんで、駆けつけてみたら……女の遺体が横たわっていて、酷い状況だったらしいぜ。相当酷い暴行が加えられていたらしい』


「そりゃ、災難だったな。ったく、怖い世の中になったもんだ。この前も久保山……先輩が殺されただろ。犯人まだ捕まってないんかな?」


『捕まってないらしいぜ。同じ中学の奴が立て続けに殺されているのを見ると、怖くなるよな。お前も気を付けろよ』


「ああ、お前もな」


 俺の事が心配になったんだろうが、まさか俺が殺害を依頼したとは思うまいて。


 あー、何かすごい人に会った気分だ。


 そうだ。次はあいつを殺してもらおうかな。




 トゥルルル……。


『はい、復讐代行』


「もしもし? あのさ、ちょっと話があるんだけど、いいか?」


『何だね?』


「残りは二人だけどさー。次は小湊を殺してくれない?」


『ほう。構わないが、なぜ彼を殺してほしいんだね?』


「こいつ、前にインスタで見たんだけど、結婚して子供までいやがるんだよ。本当、ふざけているよなー。自分は散々ヤンキーぶって、俺をイジメておいて、自分は幸せな家庭を築くなんて。こんなの不公平にもほどがあるよ。俺にも散々、暴行を加えてきたクソ野郎だから、幸せな家庭もぶっ壊して、早く死ぬところが見たいんだ」


『わかった。次のターゲットはそいつで良いんだな。明日の夜にでも決行しよう』


 話が早いねー。ふふ、どんな死に方をするか楽しみだなー。




「おう。あ、そうそう。もう二、三人殺したい奴いるんだけどさ。追加料金はどのくらいかかるんだい?」


『報復の内容によるな』


「ふーん。じゃあ、一人は俺の小学生と中学生の頃の同級生の宮野康彦。こいつ、俺の事を散々馬鹿にしていてさ。自分だって大したスペックじゃねえくせに、威張っていたし、少年野球チームに入っていた時もやたらケツバット……ケツをバットで殴ってきたクソ野郎なんだ。たまに友達ぶっていたけど、イジメ羅れている時も助けやしないし、今になってムカついてきた。どうだい?」


『ふむ……良いだろう。イジメの報復だな。それでは、その人の個人情報をできる限り詳しく教えてくれ』


「OK。悪いけど、今、どこでどうしているかわからないけど、昔のでよければ」


 依頼通り、宮野の住所、電話番号、メアドなどの個人情報を詳しく教えてやる。


 あーあ、何か無敵な人になった気分だ。




『わかった。もう一人いるのか?』


「おう。今度はさー、また女子なんだけど、島口睦美。こいつもロクな女じゃなくてさ。可愛い顔をしておいて、俺を馬鹿にしてよ。放課後に呼び出しておいて、告白かと思ったら、単に俺をからかうための嘘で騙した俺を笑いものにしやがったんだ。マジムカつくよなー」


『ふむ……本当にその子も殺してほしいのかい?』


「ああ」


『わかった。なら、合計三千円だな。前に指定した口座に振り込んでおいてくれ』


「OK」


 と、追加の依頼もチャチャっと済ませて、電話を切る。


 うーん、楽しみだなあ。



 翌日――


「ちょっと、こんな時間に何処に行くんだい?」


「大野とちょっと約束してるんだよ。すぐ戻るから」


 夜中になり、あいつが死ぬ所を見たくなって、小湊の自宅へと向かう。


 インスタで自宅の写真や住んでいる市まで上げていたせいで、奴の住所は確認済みだ。


 全くうかつな野郎だよな。


 ま、馬鹿な脳筋野郎だったから、考えもなしにそんなことをしているんだろうけどよ。



「この辺のはず……ん?」


 カンカンカンっ!


 自転車で駅まで向かい電車に乗って、小湊の自宅の最寄り駅まで行って、住宅街まで歩いていくと、何やら消防車のサイレンまで鳴っていて、人だかりができていた。


 まさか……。


「ちょっとすみません……あ」


 人ごみをかきわけていくと、一軒の家が業火に包まれており、消防車が何台も消火活動にあたっていた。


 これは……奴の家か? インスタに上がっていた家と同じに見えたので、間違いなさそうだ。




「あの、すみません……火事になっている家って……」


「ああ、最近越してきた小湊さんの家だよ……まだ若いうえに二歳くらいのお子さんがいるのに……」


 近くの人に聞いてみると、間違いなく奴の家だった。


 へえ、二十代で一軒家購入なんてどんだけリア充なんだよ。


 仕事は土建屋だか経営しているみたいだけど、これで人生終わるとはな。



「ふ……」


 ニヤニヤしながら、現場から立ち去っていき、家路に着くことにする。


 まさか家に火を点けるとは思わなかったが、焼死って辛いらしいから、奴にはふさわしいよ全く。




「ん……お、これは……」


 翌朝になり、ニュースを点けると、あいつの家が火事になったニュースがやっていた。


 どれ死んでいるかなー……


『昨晩、〇〇県×〇市の住宅で火災があり、そこの家に住んでいた三名の住人と連絡が取れなくなっています。小湊博一さんとその妻の育代さん、そして長男の達樹君で現場からは三人の焼死体が発見されており、警察は身元の確認を急いでおり……』


「へ?」


 三人? え?


 小湊だけじゃなくて、あいつの奥さんや子供まで死んだってこと?


 確か二歳の子供がいたらしいが……。



「……っ! はい」


『やあ。ニュースは見たかい? 君のお望み通り、小湊博一を始末したぞ』


「あ、ああ……あの、あいつの奥さんや子供も?」


『そうだ。ついでに始末しておいた。君はあいつが幸せな家庭を築いていたことが許せなかったんだろう。だから、奥さんと子供も同じって事でまとめて始末しておいた』


「始末って……いや、俺はそこまでは……」


 頼んでない。確かに小湊が俺を散々イジメておいて、結婚して家庭を築いていたのは許せなかったが、だからってあいつの嫁や子供まで……。




『どうした? 何か問題でも?』


「あのさ……俺、小湊には恨みはあったけど、あいつの子供と奥さんとは面識もないし、恨みもないんだよ。何も殺すことはないだろう」


『だが、そいつが幸せな家庭を築いているのが許せなくて、ぶっ壊したかったんだろう。だったら、問題はないな』


「あるよっ! 別に子供まで殺せとまでは言ってないだろ! お前、よくそんなことをして平気な顔をしていられるなっ!」


 あいつの嫁も子供にも良い感情は抱けないが、だからって死んでほしいとまでは……こいつ、小さな子供まで平気で焼き殺すなんて、頭おかしいんじゃ……。




『ふむ。イジメっ子は許せないが、そのイジメっ子の嫁や子供までは罪がないから、巻き込んだのは許せないと。君が正義感が強い男なのはよくわかった。だからこそ、イジメっ子たちが何の報いもうけずに幸せに暮らしていた世の中の不条理さが許せなかったわけか』


「御託は良いっ! お前、自分がしたことわかっているのかよ! さ、三人も殺したら、もう……俺は言ってないからなっ! 嫁と子供に関しては殺せと言ってないからなっ!」


『そんな言い訳が今更通ると思うかい? 仮に奥さんと子供を除いても、すでに三人殺している。三人も五人も同じじゃないか』


「同じじゃねえ! もう良いっ! これ以上はやるんじゃないっ! 関係ない奴まで巻き込むようなのは契約違反だっ!」


『ほうキャンセルする気かい? なら、キャンセル料を払ってもらおうかな』


「きゃ、キャンセル料? いくらだよ?」


『一人当たり一千万円。計三千万だな』


「はあ? ふざけんなっ! そんなの払えるわけ……」


『君は殺人依頼を軽く見過ぎている。殺害の依頼を撤回するというのはそれだけ重いものだということだ。少なくとも私にとってはな。今月末まで猶予を与える。キャンセル料を三千万円払わなければ、三人とも依頼通り殺すからそのつもりでいてくれ』


 と、とんでもない無理難題を吹っ掛けてきたおっさんに唖然としてしまい、言葉を失う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る