第5話

第5話



「スネサ、馬鹿なことを言うな。リィンのように、努力しても魔術が覚醒しないものはたくさんいる」


 ファルは、今度はシレナが何か言いかけたのを遮るように反論してきた。


「そうであっても、ファルの知りあいならば」


「俺は、リィンには無理せず、普通の生活を営んで欲しい。魔術なんて、日常生活では特別必要ではないはずだ」


「ファル、あなたは騎士団にいるわけで、自分の世界へ戻れる保証があるけど、この子にはないですのよ。もっと頑張らなきゃ、先行き駄目ってことでは?」


 過保護なファルは、スネサは顔を顰めて俯いたままの私は一瞥して言う。


「リィンは、前の世界からずっと、誰よりも努力している。危険な騎士団に入らなくても、魔術が使えないままでも、きっと選ばれてもとの世界へ戻れる。彼女のことをよく知っている俺が保証してもいいくらいだ」


 ファルは、確信めいた力強い言葉で言う。


「この子の神秘的な黒真珠の瞳が、稀なのは確か。でもこのままいくと、騎士団にいるファルと道がわかれて別々の就職先となり、もしかしたら辺境の村へ飛ばされ、聖地に残らない恐れもある。ファイル、本当にそれでいいわけ?」


「そうよ。稀なる力がもしあるならば、もっと考えるべきですわ!」


「シレナ、スネサ、俺はリィンには魔術なんていらないって、さっきから言っているだろうが。俺がいる前線なんて、リィンには危なすぎる。もしリィンの就職先が聖地より遠くなっても、俺が今まで通り彼女の様子を見に、余暇を作って会いに行けばいい話だ。俺自身、リィンをむやみに傷つけたくないから、それで充分だよ」


 ファルは、しつこい二人にむきになって言い返してくる。


「ファルって、過保護すぎですわ!」


「そうね」


「過保護で結構。リィンを大事な妹として認識している以上、これは俺にとって当たり前の感情だしな」


 ファルの自分を大切にしている気持ちを受け取り、私の胸奥は熱くなっていた。


 今のままでは自信が持てない、もどかしさは残っていた。


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