第4話

第4話



「ファル、こんなところにいたのですね!」


「スネサ、俺に触るな!」


 スネサという美女の行為に目を吊り上げたファルは、彼女の両肩を取る。


 手厳しく引き剥がしたファルは、私の細腕を取って自分の背後へまわす。


「酷いですわ! ファルって本当つれないですわね! それにこの子、一体何者ですの?」


 スネサは、真っ赤な唇を尖らせ、ファルの広い背中で半分隠れた私を忌々しげに睨んでいる。


「もしかして噂の子?」


 もう一人の美女が両手を腰に当てて、私を興味深げに見ている。


「噂? なんのことだ? シレナ」


「ファル、知らないの? 七歳から目覚めた女の子に、ファルが肩入れしているって、以前から噂があって。あまりにも幼すぎるけど、この子がそうなの?」


 シレナという美女が指摘するように、私は十歳だがいまだに幼すぎる。


 七歳少し上くらいにしか、見えないと言われることが多々あった。


「摺墨色の髪のまんまで、その上小娘すぎて、優秀なファルと全然似合わないですわ! それとももしかして、ファルって少女趣味ですの?」


 スネサは、嫌味たらしく口角を上げる。


 私の髪色の摺墨色は、生まれの色ではなく、もともとあった力や記憶が戻らない未発達な証拠の一つだった。


 目の前の三人は、見事に自分の髪色に戻り成長も果たし、なかなか成し得ない神位族の証拠として、誰も彼も内からの自信に満ち溢れ堂々としていた。


 神位族となると、敵と対峙するためにも自らの種族や莫大な神威気を隠すすべも心得ていて、全てに手慣れている。


 ファルを知っている私は、美女二人もどことなく彼と似ていることに気づいていた。


「スネサ、馬鹿なことを言うな。この子はな、俺の妹みたいな存在だ」


「それじゃあ、ファルの遠戚ってこと?」


 シレナは、嫉妬まじりに見ているスネサと違う。


 ファルよりも自分たちの様子を神妙な顔でうかがう私のことをじっと、物珍しそうに観察している。


「違う。この子は遠戚じゃない。俺とは昔馴染みだ」


「硬質なファルが肩入れするなんて、信じられない限りですわ。女性に興味がないと考えていたのに。子供には優しいって話だから、趣向が違うってことですの?」


 スネサは、納得いかないのか、ファルにしつこく問い詰めてくる。


「そういうのではない。俺には自分の世界に、恋人がいる。この子の場合は、前の世界でも幼い頃から知っていて、俺が妹のように可愛がっているだけだ」


「女嫌いなファルに、恋人やら妹やらいるなんて意外。さすがに硬質なだけあって、手練れのスネサに靡かないわけだわ」


 シレナは、納得がいったのか、ふーんと鼻を鳴らしている。


「シレナ、いい加減なことを言わないでちょうだい。うちがファイルに目をつけたのは最近のことだし、彼のことは諦めてもないですわよ」


「スネサは、懲りてないのね」


「もちろん。恋人は前の世界の話で、ファルが女性のことを知っているならば、うちに可能性あるってことでしょう?」


 スネサは、シレナの言い分にむきになって反論してきた。


「スネサ、可能性なんてない」


「ありますわ! だってこんな小娘、ファルのそばになんて、絶対に似合わないですもの。そうでしょう?」


 ファルがバッサリと切り捨ててきたので、スネサはいっそう目を吊り上げる。


「スネサには、俺自身やこの子のこと、何も関係ない話だ」


「ファルは、うちと同じ騎士団だし、充分に関係ありますわよ! ファイルって、本当つれないし、酷い言い草ですわね」


「ファル、この子の名前は?」


「そうですわ。名前なんて、真名じゃなく呼び名でもいいわけだし、特別隠す必要ないでしょう? ファイルに隠れてばかりじゃなくて、自分で名乗ったらどう?」


 ファルが隣にいる私の名前を明かそうとしないことに気づいたのか、シレナが口を挟んでくる。


 スネサまでも、皮肉気に言い添えてきた。


「スネサ」


「私の名前はリィンで、十歳です」


 ファルとスネサが睨みあっているなか、覚悟を決めた私は、彼の背後から出てた。


 凛然と背筋を伸ばして、私は自ら名乗る。


「リィン。可愛い名前。もっと幼いと思っていたわ。十歳には見えないかも。ところで今、どこに所属しているわけ?」


「ファルの昔馴染みなら、魔法院でしょう?」


 リィンは、スネサの言葉に小さな肩が震わせ、顔を強張らせた。


「違います。まだ学びの園にいて」


「嘘! いくら七歳から目覚めたとはいえ、十歳なのに魔術はまだですの? ファルと関わりがあるのに、信じられないですわ! 努力が足りないってことでは?」


 スネサの問い詰める姿は、私にとってはいつもの辛辣な反応だったが、心が苛まれて項垂れた。

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