第27話 檻の中
窓を覆った結界は、夜明けを迎えても解かれることはなかった。
青白い光が淡くゆらぎ、まるでこの城そのものが檻に変わってしまったように感じられる。
ベッドの縁に腰掛け、私は膝を抱える。
レオンは部屋の入り口に背を預けたまま眠っているように見えたが、彼の指先は剣の柄から離れていなかった。少しの気配にも反応できるように――私を守るため。
けれど。
『お前は俺を呼んだ。自由を望む声が俺に届いた』
ゼノの低い声が、何度も耳の奥で蘇る。
本当に、私はそんな声を出してしまったのだろうか。
レオンの腕の中で温もりを求めながら、同時に苦しさに耐えきれなかったあの瞬間……心の奥で、誰かに助けを求めてしまった?
「……違う」
小さく首を振る。けれど胸の奥が否定を拒んでいた。
自由に羽ばたきたい気持ちと、ここに留まりたい気持ち。
二つの思いが、羽根を引き裂くように私を痛めつけている。
「紗羅」
不意に、眠っていると思ったレオンの声が降ってきた。
彼は瞳を開け、静かにこちらを見つめていた。
「何を考えてる」
嘘がつけない金の瞳に、心臓が跳ねる。
「……何も」そう答える声は震えていた。
レオンはすぐに立ち上がり、私の前に膝をつく。
手を伸ばし、頬を撫でるその仕草は優しいのに――目は鋭く、必死に縋るようだった。
「俺を疑うな。俺を置いていくな。……あの男の言葉なんて、忘れろ」
息が詰まった。
なぜ、ゼノの言葉を思い出していると分かってしまうのだろう。
「……私、忘れようとしてるよ」
精一杯絞り出したのに、レオンは眉を寄せ、私を抱き締めた。
「忘れるんじゃない。最初から心に入れるな。お前のすべては俺だけに向けろ」
強く、強く。
背中に回された腕が痛いほどで、胸が苦しくなる。
――でも。
その抱擁に閉じ込められるほど、ゼノの蒼の瞳が鮮やかに甦る。
檻を破ろうとする自由の光。
レオンの金の瞳とぶつかり合うたび、余計に忘れられなくなっていく。
「……レオン」
彼の名を呼んだ声は、愛を確かめる言葉のはずだった。
けれど、口にした瞬間に気づく。
その裏に「それでも」と抗う私自身の心が潜んでいることを。
――檻に囚われたままでいいのか。
ゼノの声が再び胸を裂いた。
私は誰のものでもない、と言ったはずなのに。
その言葉にすら、自分で縛られている。
夜が明けたはずなのに、心はますます暗闇に沈んでいく。
レオンの腕の中で、私は瞳を閉じた。
眠りに落ちることなく、ただ深い葛藤だけを抱えて――。
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