第26話 裂かれた誓い
瓦礫に塞がれた大広間から、レオンに抱きかかえられるようにして部屋へ戻った。
静まり返った城の廊下には、風の音も人の気配もない。
私とレオンだけ――。
けれど、胸の奥ではまだゼノの声が響いていた。
『言え。お前の本当の願いを』
「……紗羅」
レオンが低く囁く。
「怖かったな。もう大丈夫だ。あいつはもう来れない」
その声は必死で、私を安心させようとしているのが分かった。
でも、抱きしめる腕が痛いほど強くて。
「……レオン、苦しいよ」
小さく呟くと、彼は一瞬だけ力を緩めた。
「……ごめん。でも離したくない」
その金の瞳は、涙を堪えているように揺れていた。
私は何も言えず、ただ彼の胸に額を預けた。
温もりの中で、安堵と苦しさが交錯して、心が裂けそうだった。
――夜。
城の塔の窓辺に立つと、闇の中に青い光が揺らめいた。
驚いて目を凝らすと、そこにはゼノの影。
崩れた大広間からどうやってここに……?
「……紗羅」
声は風に溶けるように届いた。
「檻に囚われたままでいいのか」
私は息を呑み、窓越しに囁き返す。
「どうして私を……」
ゼノの蒼の瞳が夜に光った。
「お前は俺を呼んだ。心の奥で自由を望む声が、俺に届いた」
「ちが……っ」
否定しようとした瞬間、背後から温もりが近づいた。
「……誰と話している」
低い声。振り返ると、レオンが立っていた。
彼の瞳は闇の中で金色に光り、怒りと恐怖で震えていた。
「ゼノ……まだここに……」
私の声が途切れる。
レオンは私を強く抱き寄せ、窓から引き離した。
「紗羅を見るな!」
怒号と共に、結界の光が窓を覆う。外のゼノの姿は闇に溶け、見えなくなった。
「……っ」
レオンの胸に押し付けられ、息ができないほどの抱擁に囚われる。
「もう誰にも渡さない。声も、視線も、全部……俺のものだ」
その言葉に、胸が締め付けられた。
愛されているのに、逃げ場がなくて。
ゼノの蒼の瞳と、レオンの金の瞳。
二つの光が心を裂いていく。
――私の願いは、いったい何なのだろう。
答えられないまま、夜は深く沈んでいった。
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