新学期
あの日以来優太に顔合わせることはなかった。したくもなかった。
新学期、僕は一番近い中学校へと入学した。
ずっとパイプ椅子に座りっぱなしの入学式が終わり、割り当てられた教室に向かった。見た事のある顔や初見の顔が雪崩のように強制移動させられている。
幸い、仲が良い人はクラスが離れるような仕組みなのか、優太は全く別のクラスだった。
そして、同じクラスには真希ちゃんが居た。
「良かった。うちの学校の子が少ないけど、叶君で嬉しい。」
「僕も嬉しい。これで一安心だよ。」
真希ちゃんは「そうだね」と言った。
「でも叶君は残念じゃない?優太君とクラス離れちゃって。」
彼女は知らないからこう言える。けれど僕の中では良かったと思う。
「…まぁね。」
一通り会話が終わると、隣の席の見知らぬ彼がにこりと笑い、話しかけてきた。
「やぁ。僕は倉本拓海。叶君だよね?盗み聞きのつもりではなかったんだけど…」
「そうだよ。」
初対面ながらに、彼とは気が合う気がした。それはおそらく彼も同じようで、楽しそうに会話をしてくれた。会話の内容は新学期ならではの、小学校の記憶だった。
そこからしばらく話して、どんな経緯でこうなったのか分からないほど話に没頭していたが、自然とコアな話題になった。
多分、彼は少し狭く深い趣味や夢がある、世間はマニアックと呼ぶ、例に出すと僕のような人間なのだ。
その後ダークヒーローは最後まで傲慢でないと面白くないとか、死以外に救済はないとか、少し不謹慎過ぎないかとお互い笑いながら、意味のわからない会話を親しんだ。
「叶君さ、ノベルとかよく読むタイプだよね?」
「まぁ好きで読む方ではあるかな。物語を創る仕事をしたいからというのもあるけれど。」
「へぇ。そうなんだ。…あ。小説といえばうちの学校にいい文章を書く子が居るんだよ。毎年作文で受賞しているし。夢は小説家だったかと。」
「遠藤律って言うんだけど…そこそこ仲良いし、今度紹介するよ。」
「ありがとう。」
新たな知り合いが出来そうな予感がした。
すると、源のような雰囲気をか持ち出した、『米田修司』と名乗る彼が突然話しかけてきた。
「気になってる子とか居る?」
新学期でこうもグイグイ来る人が居るとは思わなかったが、それなりに返してみた。
「あー。安西真希って子が気になっているかな。小学校一緒だったし。」
聴かれて本人にバレるリスクがありながらも馬鹿正直に答えた。
「うーんごめん。まだ顔が一致しないわ。」
「そりゃあそうだよ。」
さすがにこの数分で分かる人間は居ないだろうと思いながら、彼との会話を続けた。
「俺、クラスに知り合いが一人もいないんだよね。」
「そうなんだ。てっきり小学校のメンツと仲の良いムードメーカーなのかと。」
彼は中学校の場面で重要となる友達関係において厳しい状況でも、多くの人に話しかけていて、凄い人だと思った。それは元々の性格があってなのかもしれない。
そして彼は軽く笑い「元気な奴とはよく言われるよ」と言った。
今日はそれ以上に人間関係の発展はしなかったが、なかなか良いスタートを切れた。やることが山積みで、どんなことがあろうとも、こんな僕でもなんとか乗り越えられるだろうという気持ちになった。
…という主人公のような事を言ってみた。
あの日の優太の言葉に引っかかりながらも。
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