卒業式
今日は卒業式。
真希ちゃんは綺麗な赤い袴を着ていて、少し大人っぽい印象だった。
「あんまり袴の人居ないからちょっと浮くね…中学の制服の方が良かったかな〜」
「いや。その方がいいよ。似合ってるし。」
美穂は青色の袴で、髪に花を沢山付けて、華やかな印象だった。
無事に式が終わった。
あの担任が泣いているのが印象的だった。
真希ちゃんは終わった後、写真撮影を誘ってくれた。二人で並んで撮った写真は大切にしようと思う。
仲のいい人と写真を撮り、色々なことが終わった後、優太が僕を体育館裏に連れていった。
ここ数日、優太の僕への態度がよそよそしくなった気がする。関わりが少なくなった訳でもないのに、話していても自然と距離を感じる返しをされる。
懐かしい。最近行ってなかったな。
「どうした?こんなところで」
親の前では恥ずかしいから別の場所で恋バナをしたいのか、理由は分からないまま彼に着いていった。
体育館裏、その場に立ち止まって僕と優太は見合う形で立っていた。
「お前…美穂が菜月ちゃんをいじめてたの知ってただろ。」
口を開いて一番最初に話した言葉はこれだった。
「…え?」
優太が言うには最近中野菜月と連絡を取っていた時、美穂からされていたいじめを優太に告白してきたらしい。
自分で自分の手首を握ると、とてつもない速さで脈打つのを感じる。もしあの時中野菜月に僕の姿を見られていたら?
そして優太は話し出した。
「それで、いじめられていた時、お前が隙間からはっきり見てたけど助けてくれなかったしその後何も言ってくれなかったって。」
「いや。あー、別人とか。ほら遠くからだったから___」
僕は慌ててしっかりとした返事が出来なかった。あたふたしてしまったからもう終わりだ。一瞬でそんな思考がよぎった。そして途中で優太は僕の言葉を遮って言った。
「俺遠くからって言ってないけど。」
あ。
「やっぱその反応。あー残念だわ。お前なら言ってくれると思ってたんだけどな。今からでも、認めてくれれば良かったんだけどな。」
「…あーなんかもういいや。親友より好きだった人を取り、庇うんだな。」
「いや。今の場合のお前は自分を庇ったようだな。」
「…なんで美穂がいじめているって部外者の優太がわかるんだ?親友である僕を信じる選択肢はないのか?」
僕は必死に語りかけた。もう弁解の余地がないというのに。
「だから、叶。お前がさっき慌てて出た言葉でもうわかったよ。それに、前々から美穂がそういう事をする人間だって薄々気付いてた。」
「五年の頃、転校した子居ただろ?」
優太は見た事があるらしい。五年の頃、美穂が、後に不登校になり転校してしまったクラスメイトをいじめている様子を。
「美穂はそういう奴なんだよ。」
背丈は同じくらいなのに、軽蔑するような目で優太は僕を見下した。
「…ああそうだよ。美穂はそんな事するやつなんだよ。」
「開き直るんだ。」
腕を組み、鼻で笑うようにこちらを見た。
「ハム子の墓を荒らした犯人は美穂なんだ。」
「僕はそれを見てた。」
わけも分からず出る言葉はあの時の事。終わりを悟ったのか僕はそれを見ていて、なおかつ知らないふりをした事も話した。
「何も知らないって言ってたよな。」
「うん。自分でも分からないんだ。でも庇った。」
「その時も見て見ぬふりしたんだな。」
「…中学からは基本関わらないでくれよな。俺そういう奴大嫌いだ。」
僕は背中を向けた優太の背中に向かって「ごめん」と言った。優太は「謝るんなら菜月ちゃんに言えよ。ずっと悩んでたんだってよ。知っているなら助けて欲しかっただろうに。」と吐き捨てた。その際優太はこちらへ目線を向けずにじっと前を見つめていた。
「僕には関係ないだろ…」
僕は小さく吐き捨てた。
その場から去る優太の背中をじっと見つめていると、思い出したかのようにこちらへ振り向いた。
「そうだ。俺はお前のこと、心から嫌いなわけじゃない。でも身近でずっと見てきた親友からはっきり言わせてもらう。」
「大人っぽいって、まともだねって褒められるのは義務教育までなんだよ。大人になったらそんな取り柄無くなるぜ。」
「…何をそんなにこの世の終わりのような顔をしてんだよ。」
「これからもっと挫折して絶望するというのに。」
「察せなかったお前が悪い」なんて言葉は流石に言うことが出来なかった。
現状を知った人が救いの手を差し出せばそれでいいんだから。
…しかし、これから様々な試練があるというなら、これはまだ小さな事で、小さな犠牲だ。なら僕は何も間違ってない。でもなぜ僕は今好きでもない相手がした罪を庇うようなことをした?いや、罪を庇うんじゃない。知ってしまったことを知らなかったようにみせようとしたんだ?僕のため?僕が僕のために今知ってしまったかのように振舞ったのか?
中野菜月からこの話を聴いた時優太はどう思ったんだろうか?僕への失望だろうか?やられた本人がそう言っているんだから僕が見ていたというのは事実に映るはずだ。しかも優太にとっては好きな人が言っているわけだ。信じないわけないだろうに。
さっきの僕は真実を言うことで見捨てられるかもしれないと必死で知らないふりをした。
でもそれが逆効果だった。犯した罪は償うのが正解だった。
「…さ、帰ろう。今日は久しぶりの外食だ。」
多分、優太は親同士仲がいいから卒業式の日までこの事を知っても黙っていんだろうな。
こうして僕の小学生としての生活が幕を閉じた。
「…忘れてた。ハム子に手を合わせなきゃ。最後なんだから。」
「ハム子。本当に災難だったな。」
「ごめんなさい。」
春の始まりに吹いたこの風は、昔のように気持ちいとは思えなかった。
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