一目惚れ

 それからあの森が暖色に変わり、やがて落ち葉に変わる頃、中野菜月が転校した。

 その話を聴いた時、優太は酷く悲しんでいた。その反面、美穂は少し笑っていた。

「中学も遠いところの行ってしまうので皆と会うことはもうないと思います。ありがとう。」

 と言って僕たちより早く教室を出た彼女の背中をじっと見ることしか出来なかった。いじめが原因なのか、はたまたよくある親の転勤なのか、そこまでは知らされなかった。

 美穂との関係は特に変わらず、あの場所には週に一度行くか行かないかという程度だった。

 なぜ美穂は中野菜月をいじめていたのか。その理由は今知る余地もない。多少気になるが。

 この時期になると二度目の席替えが行われる。僕はまぁまぁいい席になった。


 そして、偶然が重なり中野菜月が転校してから約一ヶ月後、僕たちの学校に転校生が来た。

 先生はやる気のなさそうに「じゃあ一言」と言ってプリントの丸つけをした。

「…えっとぉ、安西真希です…とても短い間ですが、卒業まで、よろしくお願いします…」

 僕は一瞬で彼女の虜になった。なんというか、胸が苦しいほどハート型のような動悸がする。これが一目惚れなのか…

 たどたどしいというか、卒業まじかで転校してきたことを不安に感じているのか、それ以上に落ち着いた雰囲気に一目惚れした。

 二人の人物を同時に好きになることはない。心から好きな人が居るのにまた新たな恋をしているのはその人に冷めてしまったからだと思う。だから今の僕は美穂より彼女を取る。

「んじゃ安西。その辺の空いてる席座れー」

 なんとまぁ奇遇なことに、空いている席は僕の隣だった。窓際の一番後ろの席。その横に彼女が座る形になった。こんなにも非日常が続くとは思わなかった。僕の日常も案外捨てたもんじゃないかもな。

「よ、よろしくお願いします。」

「うん。よろしくね。僕、叶。同い年なんだし、タメ口でいいよ。」

 彼女は「わかった。叶君」と言って荷物を置いた。

「それじゃあ授業始めるぞー」

 するとクラスのお調子者の源が言った。

「先生ー真希さんの自己紹介とか質問タイムとかないんですかー?」

「ある訳ないだろ。第一お前ら卒業まで日数少ないんだよ。授業も全然終わってねぇからそれは個人でやってくれー」

 全く。自分がめんどくさいからって自習ばっかしてるせいなのに。

「ちょっと怖そうな先生だね。」

 すると彼女は不安そうに小声で耳打ちをした。

「いや全く。ただめんどくさがり屋なだけで急にキレることもないから安心しなよ。」

 彼女は「良かった。」と言い、「前の学校では先生に嫌な思いをさせられてたから…」と目線を下に向けて話した。

「そうなんだ。」

 次の休み時間はきっと彼女の周りに人が集まるだろう。そう思っていたから僕は優太の席に向かった。前は班が一緒だったけれど、今は真反対に居る。たまに授業中アイコンタクトを取ることしか出来なくなってしまった。

「転校してきた安西真希。あの子クラスに馴染めんのかな。」

 僕も思った。こんな卒業ギリギリで転校してきて、前の学校と未練がまだあるだろうし。

「…ああいう子って意外とモテんのかな〜」

「まぁ…それはわかんないじゃん」

 よく分からない返事をしてしまった矢先、優太は目を見開いて口をギュッと閉じた後、再び話し出した。

「…わかりやす。お前あの子のこと好きになったべ?」

「…バレた?」

「まぁ俺はいつまでも菜月ちゃんが好き。浮気症じゃないんでね。」

 よく言うさ。僕は知っているんだよな。もう十二年程の付き合いだから。コイツは幼稚園時代、一度に三人の子を好きになって全員に告白して全部振られていることを。

「もう美穂のことは好きじゃないから。浮気とかそんなんじゃないよ。」

 優太は「ハハっ」と笑い「叶は熱しやすく冷めやすいタイプだったんだな」と言った。

 僕は彼女のことをもっと知りたい。だから給食時に「昼休み少し話さない?」と誘った。そしたら、「わかった。」と彼女は言った。

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