第4話
翌朝、俺はミリアを起こし、村の外れにある荒れた畑へと向かった。昨日のうちに目星をつけていた場所だ。そこは、かつては畑だったのだろうが、今は背丈ほどの雑草が生い茂り、土はひび割れていた。
「ここで、何か作るの?」
ミリアが不安げに尋ねる。これほどの荒れ地を前にして、ミリアだけでなく、俺自身も途方に暮れていた。前世で農業経験など皆無だ。せいぜい家庭菜園でミニトマトを育てたことがある程度で、こんな広大な土地を耕すなんて、想像もつかない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。食料を安定させるには、自ら作物を育てるしかないのだ。
まずは雑草を抜く作業からだ。手で引き抜いてもきりがないため、鑑定スキルで使えそうな木の枝を探し、簡易的な棒状の道具を作った。これで地面を掘り返し、根っこから雑草を引き抜いていく。
数時間作業していると、すぐに疲労が襲ってきた。汗が目に入り、腕も足もパンパンに張っている。こんなことを続けていては、体が持たない。効率的な方法はないか。
ふと、俺は鑑定スキルで畑の土に目を向けてみた。
「痩せた土壌。栄養分欠乏。水はけ悪し」
まさにその通りだ。これでは、まともな作物は育たないだろう。何か、この土を改良する方法はないか?
その時、頭の中に別の情報が浮かび上がった。鑑定スキルの応用なのか、それとも別の何かなのか。
「簡易加工:土壌改良。素材:腐葉土、灰」
簡易加工?初めて聞く言葉だが、鑑定のように頭に直接情報が入ってきた。しかも、必要な素材まで教えてくれている。
俺はすぐに立ち上がった。腐葉土なら、近くの森に行けば手に入るはずだ。灰は、昨夜の焚き火の残りがある。
ミリアに「少し待っててくれ」と告げ、俺は森へと足を踏み入れた。鑑定スキルを駆使して、腐葉土が堆積している場所を探し出す。地面を覆う落ち葉の下には、確かに黒く肥えた土があった。それを手で掘り起こし、持ってきた粗末な袋に詰めていく。
小屋に戻り、昨日使った焚き火の灰と、森で集めてきた腐葉土を畑の土に混ぜ合わせる。最初は半信半疑だったが、混ぜるうちに土の色が少しずつ黒っぽくなり、手触りも柔らかくなってきた。
「兄様、土が、なんか変わった……」
ミリアが驚いたように土を触る。俺も自分の手で確かめる。明らかに、先ほどまでの硬くひび割れた土とは違う感触だ。
「よし、これで少しはマシになったはずだ」
鑑定スキルで再び土壌を確認すると、「改良された土壌。栄養分改善。水はけ改善」と表示された。
これだ。この「簡易加工」スキルを使えば、資材を効率的に加工したり、既存のものを改良したりできるのかもしれない。鑑定スキルで対象の性質を把握し、簡易加工でそれを改善する。まるでゲームのようなスキルだが、目の前の現実を変える力がある。
時間はかかったが、夕方になる頃には、わずかながら耕された黒い畑がそこにあった。たった数坪の小さな区画だが、俺にとっては大きな一歩だった。
今日の作業で、俺は鑑定スキルに加えて、この「簡易加工」スキルという強力な武器を手に入れた。これがあれば、この痩せた土地からでも、きっと作物を育てられる。
陽が沈み、冷たい風が吹き始める。空腹を感じながらも、俺の心には確かな希望が灯っていた。明日から、本格的にこの畑に種を蒔く準備を始めよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます