第3話
小屋に戻ると、俺はミリアが見つけてきた壊れかけの鍋と、かろうじて残っていた薪を使って火をおこした。火加減を調整しながら、摘んできた野草を茹でていく。茹で汁は捨て、苦味を抜いてから、改めて少量の水で煮込んだ。味付けらしい味付けはできないが、それなりに食べられるものにはなったはずだ。
「これ、食べられるよ」
小さな皿に盛り付けた野草をミリアに差し出すと、ミリアは目を丸くしてそれを見た。その表情には、警戒と期待が入り混じっている。今まで、こんなにまともな食事にありつけたことがなかったのだろう。
ミリアは恐る恐る一口食べ、そして、ゆっくりと咀嚼した。その目が見開かれ、安堵の表情に変わる。
「おいしい……」
その言葉に、俺は少しだけホッとした。見た目は地味だが、鑑定スキルのおかげで毒はないし、栄養もある。味も、まあ、それなりだ。ミリアが夢中になって食べている姿を見ていると、俺の空腹も少しだけ和らいだ気がした。
俺も残りの野草を口にする。素朴な味わいだが、身体に染み渡るような温かさがあった。これだけで、ひどく満たされた気分になる。
食事が終わり、小屋の外に出ると、日が傾き始めていた。村の中を歩いていると、ちらほらと小屋の陰から、俺たちを見る視線を感じる。ほとんどが女性で、歳はミリアと同じくらいの幼い子から、俺より少し年上に見える者まで様々だ。どの顔も、俺たちと同じように痩せている。
その視線には、好奇心と同時に警戒の色が見て取れた。おそらく、これまで俺がこんなに積極的に行動することはなかったのだろう。突然、村中を歩き回り、見たこともない草を摘んで帰り、そして幼い妹に食べさせている。不審に思われても仕方ない。
それでも、俺は構わず歩き続けた。村の現状を少しでも把握しておきたかったからだ。荒れ果てた畑、寂れた家々。この村は、飢えと貧困に蝕まれている。
すると、一軒の小屋の前に、一人の少女が立っていた。俺より少し年下に見えるが、ミリアよりは歳上だ。手にボロボロの布切れを持っている。彼女もまた、俺に気づくと、怯えたような目でこちらを見た。その瞳の奥には、強い警戒心が宿っている。
「……何か、困ってるのか?」
思わず声をかけると、少女はビクリと肩を震わせ、すぐに小屋の奥へと引っ込んでしまった。
やはり、いきなり声をかけるのは警戒されるか。無理もない。これまで、ろくに交流もなかった相手に、突然話しかけられたら誰だって怪しむだろう。
それでも、俺は諦めなかった。この村で生きていくためには、この村の住民と関わっていく必要がある。そして、何よりも、目の前の飢えをなんとかしなければならない。そのためには、協力も必要になるだろう。
夕日が地平線に沈み、空が茜色に染まっていく。俺は、明日からどうすべきか、頭の中で考え始めた。まずは、安定した食料の確保が最優先だ。そして、そのためには、畑をどうにかする必要がある。
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