第2話

 幼女に連れられ外に出ると、そこは言葉通りの寂れた村だった。


 土を固めたような小屋が数軒、まばらに建っている。道の脇には雑草が生い茂り、まともに手入れされている畑は見当たらない。遠くには、こんもりとした森が見えるが、それ以外は荒涼とした風景が広がっていた。


「ここが、私たちの村だよ」


 俺の隣で、幼女が小さな声で説明してくれる。幼女の名前はミリアというらしい。アレンという名前のモブ村人に転生した俺は、このミリアの兄、という設定だ。


 村には人影がほとんどない。わずかに見かけるのは、俺たちと同じように痩せ細った、くたびれた様子の女性ばかり。子供の姿は、ミリア以外ほとんど見かけなかった。男の姿は、影も形もない。


「お腹、空いたね……」


 ミリアが弱々しく呟いた。その言葉で、俺の胃もキリキリと痛み出す。そういえば、目が覚めてから何も口にしていない。前世では、いつでもコンビニに行けば食料が手に入ったし、冷蔵庫には食べきれないほどの食料があった。それが、今はどうだ。


 食料を探しに、俺はミリアの手を引いて村の中を歩き回った。しかし、見つかるのは、どう見ても食べられそうにない木の実や、枯れかけた雑草ばかりだ。どの小屋も同じように質素で、食料を蓄えている様子もない。


「兄様、これ、食べられる?」


 ミリアが、道の脇に生えている見慣れない植物を指差した。先端に赤黒い実がついている。前世の知識では、植物の判別なんてまるで分からない。下手に食べたら、とんでもないことになるかもしれない。


 その時だ。ミリアが指差した植物を見た途端、俺の頭の中に「猛毒。摂取厳禁」という文字が浮かび上がった。


 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。幻覚か?しかし、その文字ははっきりと、俺の意識の中に表示されたのだ。


 恐る恐る、今度は別の植物に目を向ける。すると、やはり頭の中に文字が浮かび上がった。「ナズナ。食用可。葉は茹でて食すべし」。


 これは……鑑定スキル、なのか?


 試しに、足元の石ころに目を向けてみる。「ただの石ころ。特になし」。


 間違いない。俺は、この異世界で「鑑定」スキルを手に入れている。


 飢えに苦しむ状況で、これほど心強いスキルはない。俺はミリアの手を握りしめ、鑑定スキルを頼りに、食べられるものを探し始めた。鑑定結果に従って、ナズナの葉を摘んでいく。ミリアは、不思議そうな顔で俺を見ていたが、何も言わずについてきた。


 しばらく歩き回って、ナズナ以外にもいくつかの食べられる野草を見つけ出すことができた。量は少ないが、何もないよりはましだ。


「これなら、少しは食べられる」


 そう言って、俺はミリアを安心させるように笑いかけた。ミリアの顔に、わずかながら安堵の色が浮かんだのを見て、俺は小さく息を吐いた。


 この異世界で生き抜くために、まずはこの鑑定スキルを最大限に活用すること。それが、今の俺にできる、最初の一歩だ。

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