死神の後継者

昨日の騒動から一夜明け、放課後の保健室でマナは深く眠り込み、その疲れた体を癒していた。彼女は、昨日の混乱の中でサイとユエに追いかけられ──ほぼ学園内を駆け回ったのだった。


その頃、ユエは教室の席に座っていたが、耐えきれない空腹に身を任せ、教室を抜け出した。お腹が鳴るたびに彼女は窓辺に寄り、「これ、このままだと倒れちゃうかも…!」と呟いた。


一方、サイは窓から外の景色を見つめながら、昨日の自分の行動を思い返していた。


「どうしてこんなことに…」




胸を掻きむしるような後悔。あの唇。ユエの視線。教室中の注目。


そんな中、ユエが教室から出て行き、いつのまにかサイは後を追っていた。無意識に――だが、他の生徒たちはそれに気付き囁き始める。


「なあ、サイってユエにベッタリじゃないか?ランキング1位と2位だってのに」 「お似合いカップル誕生!?」




ユエは振り返ってサイに目を合わせ、ふっと微笑んだ。そして、角を曲がった瞬間、後ろから肩をポンと叩いて――


「んもー、どうしてついてくるの?“さいちゃん”」


その声は甘く、愛しい響きを帯びていた。サイは振り返り、心臓が飛び出しそうになりながら――


「ち、違うよ!俺も…その、単にお腹が空いただけで!」


ユエは手をつないできて、にゃっといたずらっぽく笑いながら答えた。


「じゃあ、一緒に行こ。私、一人で行きたくないから。」


サイは深く頷いた。二人は廊下を並んで歩き出す。通りすがる生徒たちの視線と囁き声が、二人をさらに赤面させた。


ユエは小さく唇を尖らせてから、はっきりと言った。


「ねぇ、今は止めとこ?まだ昼だし、目立っちゃうよ~」


サイは思わず腕で顔を隠し、声を震わせた。


「ユエ……やめてよ…マジで…!」


ユエは微笑んで首を傾げた。


「ふふ、サイは構われるの嫌いじゃないじゃん?」



---


教室から食堂へ


ユエは先に食堂へ向かい、「サイ、席取ってて」と言ってスタスタと列に並んだ。サイは指定された窓辺の席に座った。窓の外には美しく整えられた中庭が広がっていた――まるで絵画のようだった。


彼は小声で呟いた。


「こんな場所で、ユエといつも一緒にいられたら…」




と、そのとき――ユエとマナがトレイを持ってやって来た。


ユエはにっこり笑いながら、


「ほら、サブライズ。おじゃま虫も一緒だけど。」


そう言ってマナを指した。マナは眉をひそめながらも、「勝手にペア席にすんなよ…」とツンと返し、そこへ座った。


サイはぎこちなく笑い、目を伏せた。


「す、すまない、マナ…。突然なのに…」


マナはスプーンを回しながら俯き、そのまま小さな声で答えた。


「……夢のせいかもしれない。夢のせいで、今も頭がぐるぐるしてて。」


ユエが関心を寄せた。


「どんな夢だったの?」


マナは黙ってスープをすくいながら、静かに口を開いた。


「角のある誰か、炎の中に居た。大量の者たちが、その人を尊崇していた。でも…」


サイの胸に鋭い予感が走った。


「その人…“魔王”だったのか?」


ユエは息を呑んだ。


「魔王?でも、あいつはもう…古の魔法使いが封印したって――――」


間髪入れず、サイは震える声で呟いた。


「俺はその…火と死の記憶を知ってる。俺が…消し去った…」


二人は驚き、言葉も出ずに彼を見つめる。



---


禁断の発動―― “絆の瞳”


マナが手を伸ばし、サイの左目を指し示した。


「サイ、その…左目。何か…魔術陣みたいになってる。」


ユエは無言で目を見開いた。


その瞬間、サイの瞳に赤い紋様が浮かび上がり、彼を突き動かすように魔力が激しくほとばしった。食堂は一瞬で騒然となった。


「サイ!大丈夫か!」


ユエが叫びながら彼を抱き寄せた。他の生徒も騒ぎ出す。慌てて二人はサイを支えながら職員室へ駆け込もうとした――保健室へ、全力疾走で。



---


UKS 保健室の混乱


保健室に着いて、医師が目を見張った。


「こ、この紋様…古代魔法の封印…!すぐにでも消そう!」


だが、医師がサイに触れようとした瞬間――サイの目が瞬時に赤黒い光を発し、医師の体から魔力を吸い取った。彼は苦しみ、膝を折った。


マナは叫んだ。


「ストップ!そのままだと…死ぬ!」


サイは朦朧としながらもゆっくりと手を伸ばし、倒れる医師を抱き寄せた。そして、掌に小さくたたずむ魔剣が生成される――細く、だが鋭く光を放つミニチュアの刃。サイはそっとそれをしまい、静かに手を置いた。



---


再封印―― “死神の眼”の謎


医師が目を開くと吐息をつき、呟いた。


「吸われた…けれど、封印は解けていない…」


ユエは静かに前に出た。


「お願いします。封印は私に…任せてください。“死神の眼”――封じられる運命ではなく、読み解かれるべきものです。」


医師もマナも驚愕し、視線をユエに向ける。そしてユエはさっと古書を取り出し、目を潤ませながら見開く。


次の瞬間、ユエはサイに近づき――


――唇を重ねた。


魔力が渦巻く中で、二人の距離は再び縮まった。そして、静けさが訪れたとき――


サイの左目は、完全に塞がれていた。


ユエは囁いた。


「これが、私の“役目”だった。前世から永遠に繋がる運命…あなたは、ずっと私のそばにいた人。」


マナは目を伏せ、胸の内は複雑すぎて言葉にできない。



---


強く胸に刻まれる――


この物語は、まだ始まったばかり。

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