オシマイ、ソシテ…
「あ、翔太たち、やっと来た!」
「お前たち、遅ぇよ。何してたんだよ!」
ふと声がして、そちらを向くと、自転車を止めた方、つまり森の入り口とは反対の方から、原田君と長瀬君が駆け寄ってきた。二人とも、ボロボロの状態の僕たちを見て、不思議そうな顔をしている。
「お、お前ら、大丈夫だったのか!?」
ショウちゃんが思わず声をあげる。
「はぁ?何言ってんだよ。それより翔太、約束、破りやがったな」
「今日の計画楽しみにしてたってのに!どうすんだよ~」
どうやら先に墓地に入っていった原田君たちはアレを見ていないようだった。
僕とショウちゃんは自然と顔を見合わせた。
ショウちゃんの顔を、目を見れば、あの出来事が嘘ではなかったということがはっきりと分かる。夢なんかではない。僕たちだけが体験した、この世のものではない、奇妙なヤツと出会ってしまったんだ。
きっと、ショウちゃんも同じことを考えている。
この空気をぶち壊す勢いで、急に原田君が僕に話しかけてきた。
「そうだ、野々村。お前、ディアクエのステージ7クリアしたんだって?俺にコツ、教えてくれよ」
原田君は僕にグイっと顔を近づけて、鼻息荒くそんなことを言う。
確かにディアクエのステージ7をクリアして、ステージ8の攻略もあと一息というところまできている。でも、そんなこと原田君に言ったっけ…?
「原田だけずりぃ~。俺にも教えてよ!ほら、翔太も頼んだらどう?」
長瀬君の言葉に、思わずショウちゃんの顔を見てしまった。
ショウちゃんも少し驚いたようにこちらを見たけれど、気まずそうに視線をずらす。
やっぱりショウちゃんと昔のように話すことは無理なのか、と諦めてうつむこうとしたとき、ショウちゃんがボソッとつぶやいた。
「…なんだよ、お前もディアクエやってたのかよ。それなら早く言えよな」
思いがけない言葉に思わずショウちゃんの顔をマジマジと眺めてしまった。気恥ずかしそうにそっぽを向いて、唇をとがらせるその表情は、幼いころに何度も見た、懐かしい表情だった。幼かった昔のショウちゃんは変わらずに目の前にいたんだとわかって、思わず表情が緩んだ。
ショウちゃんはそんな僕を変なものを見るような目で見てきた。
「なんだよ、こっち見んな。ハルのくせして」
「ハル…?」
自分の耳を疑った。ショウちゃんの口から幼いころのあだ名が聞こえてきたのだ。いや、さっきから何度か言われているような気はするが、気のせいだと思っていたのだが…。
僕が思わず聞き返すと、ショウちゃんはハッと自分の口を手で押さえた。
「ち、ちがっ、間違えたんだ!忘れろ!今すぐに!」
明らかに狼狽している。
流石にこの姿には、僕も顔をにやけさせてしまった。
吹き出す音が聞こえて、そちらを振り向けば、原田君たちが腹をかかえて笑っていた。
「野々村遥だから、ハルなんだ~!」
「仲直りしたがってたくせに、なんでそんなことで照れんだよ!」
「つーか、仲直り無事できたって感じ?」
二人ともここぞとばかりにショウちゃんをからかっている。
「ばっか!それは、言わねー約束だっただろ!」
ショウちゃんが原田君たちに掴みかかっていく。
ここで僕はようやく、今回の肝試しの本当の目的に気づいてしまった。
器用なくせに、どこか不器用なショウちゃんらしい計画だと思った。
いつの間にかさっきまで感じていた恐怖はどこかへ消えてしまった。
現実だったのかもしれないけれど、今はもう夢としてしまってもいいような気さえしていた。
4人で次に遊ぶ約束をしながら、僕たちは帰路についたのだった。
月明かりの届かない闇の中、この世のものとは思えない異形の何かは不気味な声を上げていた。
「ち、ち、ちちち」
異形のものは先ほどの少年が落としたハンカチを「口」と呼べる部分に押し込んで咀嚼をしている。あまりの様子に、これを見た人間は失神してしまうのではないか、それほどの恐ろしい姿だった。
そこに一人の少女が現れた。巫女の装束を身にまとい、両手を握りしめている。
「どうか、怒りを鎮めて」
彼女が目をつぶって祈った途端、異形のナニかは急に動きを止め、静かにどこかへ姿を消した。
その様子をただじっと見つめていた少女はポツリとつぶやいた。
「誰か、早く、彼女たちを救って…」
一夜の肝試し @ko-nosuke
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