第14話 冷たい笑顔は喉に突き刺さる(千夏)

 杉村という名字に私の鼓動は高まった。あの出会った瞬間に見た体操服に書かれていたのと同じ。その瞬間、ある憶測が浮かんだ。

 咲希の復讐に燃える弟、杉村凛。前川先生めがけて来たのだと。

「担当教科は…?」

 何も考えず手を挙げ、教室で発言をしたことに、みんながこっちを振り返った瞬間に気がついた。そして、回答は古文。前川先生と同じだった。私はこれを偶然とは思わなかった。昼休みのチャイムが鳴って少ししたら、私は職員室へと向かい、凛先生を呼び出した。

「もしかして、杉村咲希さんのご兄弟ですか?」

 優しい顔が少し曇った。

「なんで姉のことを知ってるの?」

「それは…屋上で」

「屋上は立ち入り禁止だからいけないはずだけど…どうするの?」

「策は…一応あります」

 自分が幽霊が見えるのと同じように、この世の中、何か能力を持っていてもおかしくはない。あの日屋上で見たことが幻でないことに賭け、あの二人を連れて来ることにした。

「やってみます」

 松島君は突然私たちを屋上へと連れて行った。転がりながら、うずくまる咲希の姿を確かに見た。

「咲希!」

 鼻の奥がツンとなる。顔が歪んで戻らない。触ることのできない咲希の頭に持って行った手は、ストンと落ちた。

「咲希がそこにいるのか?」

 目に涙を振るわせながら、凛先生が聞いてきた。

「はい。私は幽霊が見えます。咲希さんとは話すこともできます。それで…友達だったんです」

「えーと、杉村先生のお姉さんの幽霊と友達だったの?」

 松島君は状況を理解するための質問を投げかけてきた。私は咲希を見つめたまま頷いた。

「松本さん、姉は何か言ってる?」

 首を振った。何故なら、咲希はただこちらに優しく微笑みかけるだけで、少しも口を開かなかったから。

「咲希、何をして欲しいの…なんで屋上に閉じこもったの?私と話すのが嫌だった?」

 何を言ってもただニコッと笑う様は無機的で、背中をなぞられるような感触だった。

「姉に…誰を殺して欲しいか聞いてくれ!やっぱり前川か?なあ、話せるんだろ⁉︎」

 私はただ首を振るだけしかできなかった。そこにガチャリと鍵の開く音がした。

「何をしているんですか!杉村先生、それとあなた達は⁉︎」

「え、泣いてる…大丈夫?」

 市川先輩と城崎先輩の2人だった。なんでこんなことになったんだろうと涙で濡れた手の甲を眺めていると、市川先輩が近寄ってきた。

「何かされたわけじゃないよね」

 変な誤解を生む可能性があると感じ取った私は、市川先輩に全てを教えることにした。

「全て…話します」

 松島君と出雲君は顔を手で隠していた。

「やっちゃったなぁこれ…」

 出雲君は手を前に伸ばすと、扉が閉まった。どうやら出雲君にも能力があったらしい。

 とりあえず昼休みでは短いため、放課後にまた集まることになった。午後の授業の話なんて何ひとつ入ってこなかった。

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