第12話 素直な言葉

 カラオケは終わり、外は真っ暗で、名前の知らない虫の鳴く声が聞こえる道を2人で帰った。会話はずっと回り続けているのに、なぜか気まずさを感じた。

「またさ、カラオケ行かない?」

 意外にも、私の飲みこむか迷っていた言葉は城崎君の口から出てきてくれた。

「うん、やっぱ遠慮なく選曲できるから良いわ」

「あと、高校入ってからあんまり喋れてなくて、なんかごめん」

「いや、良いよ。だって君は憧れの陽キャになれてたじゃん」

「え、全然だよ。正直馴染めてないし、俺根っからの隠キャだからあんまり話合わんし」

「そうなの?楽しそうに見えてたけど」

「楽しいは楽しいんだけどね」

 変に話を掘り下げてしまった。虫の音が大きくなるように感じる。どうにか話をそらそうと頭を回すのだけれど、何も思いつかず、さらに虫の音が大きくなる。

「「あのさ」」

 声が被ってしまった。城崎君は先に言ってという顔をした。

「また、学校で普通に話そうよ。居心地悪くてさ。いつも暇してるから、気が向いたらで良いから、教室に来てよ」

「うん、分かった。絶対に行く」

 私は、男女とか関係なく話合えるのがたまらなく好きだった。これを、恋愛なんかと間違えられるとモヤっとした。ようやく分かった気がする。数ヶ月で喧嘩して別れてしまうような、学生の恋が嫌いだったんだ。嫌いだったから私たちはそれより上だと心のどこかで思っていて、それが突然なくなってしまったから喪失感にやられ、考えも無しに人を助ける2年間を過ごしたんだ。

「なんて言おうとしたの?」

「久しぶりに心の底から楽しかったって言おうと…したんだけど…なんか恥ずいわ」

 2人とも何だか恥ずかしくなって会話が止まった。虫の音がまた大きくなる。青春は多分また戻ってきたのだと思う。

 その日は帰るなり、早々に寝てしまった。あっという間に朝になり、さっさと用意をして少し早く学校に向かった。

「あ、市川」

 後ろから城崎君の声がした。これまでは通学路で会ってもどこか気まずくて声を交わすことはなかった。遅く歩く奴らを意味もなく早歩きで追い越すだけの登校時間が退屈だった。

「なあ、前の集団遅くね?」

「抜かすか」

 ただ、二人になっただけなのに、全然退屈じゃなかった。少し清々しかった。

「もうそろそろ教育実習生が来る時期だよね」

「めちゃくちゃ可愛いくてかっこいい人来ないかなー」

「かっこカワイイなんてオタクに優しいギャルぐらい絶滅危惧種でしょ」

「そうでもないと思うけどなー」

 校門を誰かと通るのが昨日ぶりという事実に私はまた嬉しくなった。

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