第11話 夢ならば

「そうそう、あのシーン1話に持ってくんのずるいよな!」

「で、オープニングを最後でまた流すじゃん?やっぱあのワクワク感が良くてさ!」

 昔よりも私たちはオタクが進行していて、怖いぐらい話が噛み合うのが嬉しくて、楽しくて仕方が無かった。時間があっという間に流れていくのが怖くて、時計をひたすらに確認した。

「うわー、喉乾いたから飲みものとってくる。市川はなんかいる?」

「よろしく頼んだ」

 城崎君は少し口ずさみながらスマホを片手に部屋を出て行った。静けさの中、知らないアイドルがインタビューを受けている映像が流れる。あと1時間ほどしか残っていないのがどこか寂しい気がした。今日城崎君と話したのも、カラオケに行ったのも、全部奇跡みたいで、きっとまた明日から仲良く話せるわけでもないだろうし、これから先二度と無いかもしれない。この調子でいくと、最後まで独りで卒業してしまいそうな気がする。今目を閉じて、ゆっくりと開けた時、そこがいつも通りの朝でも多分納得してしまうのだろう。私は目を閉じた。まだインタビューを受けている声が聞こえる。

「え、市川寝てんの?」

 目を開けるとコップを2つ抱えた城崎君がいた。

「もしかして全混ぜした?」

「いや、流石にね。ちょっとだけだよ」

「混ぜたんかい」

 笑い声が部屋に満ちる。甘ったるくて、少し濁ったその飲み物を少しだけ飲んだ。決して美味しいとは言えないけれど、どこか癖になる味が口に満ちた。

「そうだ、さっき後輩が居たんよ。ウーロン茶持って走ってた。隣の部屋だったみたい」

「ここ、うちの人らよく来るのかな」

「うん、結構多いよ。ちなみに、前川先生が1人で来てたらしいよ」

「何歌うんだろうね。気になる」

「よく分かんない昔っぽいやつだって」

「私、次の曲入れちゃうね」

「あぁ、これ知らないやつだ」

「このアーティスト、すごく良いんだよ。もしかしたらサビは知ってるかも」

 とある歌い手が歌ってて初めて知った曲で、夜が似合うメロディーが心に刺さった。少し長いアウトロが終わった後、城崎君が口を開いた。

「確かに、これ良いじゃん。なんか、おしゃれでさ…」

「でしょ。良かったら聞いてみて」

「こういうガッツリなラブソングとかも良いな」

 全くそんな感じで聞いていなかったから、びっくりして歌詞を思い返すと、結構な歌詞だったことに気がついた。顔が赤くなるのを感じた。この空気をかき消したいがために、ガツガツしたアニソンをいくつか歌った。全部、あっという間だった。

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