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夜の8時。

最寄駅に着いて少し冷え込んだこだままでの道のりを歩いていると、晴澄が急に足を止めた。


「どうしたの?」


「夜、こだまじゃなくてうちで食べませんか?」


「え」


突然の提案に驚いた。

晴澄の表情は暗くて、あまりよく見えない。



「実は今日、こだまでの仕込みの前に自分家でも夕食用意してきたんです。槙江さんの卒業祝いできたらなって思って」


嬉しい。

嬉しいけど、頷いていいのだろうか。


この提案に頷いてしまったなら、私は多分、自分の気持ちを伝えてしまうんじゃないかって思う。


それくらい今、高鳴って、浮かれている。



「…いいの?」


「はい」


月明かりに照らされてようやく見えた晴澄の表情は少し色っぽくて、

心無しか、声も低く聞こえた。


晴澄の家は駅を挟んで私の家とは反対側にあった。

多分うちまでは歩いて20分くらい。

思ったより近いところに住んでいたことに驚いた。


3階建てのアパートの2階。

そんなに新しい建物ではないように思えたけど、中はリノベーションされているのかとても綺麗な1DKの家だった。

その内装は晴澄そのものを表すかのように清潔感があって、物も少ないように思える。

うちの方が広いはずなのに、抜け感があるというか、とにかく整えられている。


そんな中でもキッチンに並べられた調理道具は特に圧巻だった。

決して大きいわけではないシンク周りに丁寧に収納されているそれが、晴澄のこれまでの努力の積み重ねを感じさせる。


さっきまでの変に緊張していた気持ちが、いつの間にか晴澄への尊敬で満たされていくような気がした。


「珍しくイタ飯なんですけど大丈夫ですか?」


「イタ飯?」


「イタリアン料理です」


「あ、そういうこと。大丈夫です」


「すぐ準備するのでよかったらシャワーどうですか?」


「えっ?」

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