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「待ってる間暇じゃないですか?帰ったらすぐ寝れますし部屋着も貸しますよ」


「ま、まあ。じゃあ入ってくる」


「ごゆっくり」


…あっという間にやましい気持ちに戻された。


晴澄の純粋な瞳に戸惑いを隠せない。

私だけだろうか。

こんなに晴澄を意識しているのは。


確か前にもこんなことがあった。

晴澄がご飯を準備している間にシャワーを浴びて…でもあれは状況が状況だったし、自分の家だったからなんとも思わなかったわけで。


なぜか図ったように今日の買い物でクレンジングを買っていた。

それと晴澄から借りた部屋着を持って脱衣所へ逃げるよう入る。


「私…大丈夫かな…」


うるさい鼓動を抑えながら、有り難くシャワーを借りた。

シャンプーもボディーソープも何か特別なものを使っているわけじゃないけれど、晴澄と同じ香りだと思うとなぜかいいものに感じる。

晴澄から漂う清潔感を作っているものなんだなと、気持ちが悪いことを考えてしまう。


シャワーを浴び終えて部屋着を着ると、より晴澄を近くに感じた。


やばい、全然大丈夫じゃない。


洗面所に映る自分の姿がまともな表情じゃないことがわかる。

この顔の赤さはお風呂上がりだからじゃない。

だけどお風呂上がりのせいにできるのは好都合だ。


ドライヤーを借りて髪をざっと乾かした。

胸下まで伸びてしまっている髪だけどこういう時パーマスタイルは楽だ。

でもそろそろ切りたい気もしている。

ただ美容室が苦手であまり行きたくないんだよな。


「よし」


今日家を出た時と同じように気合を入れて、脱衣所を出るとビックリするくらいいい匂いがした。


「うわ、すごい」


机の上にはシーザーサラダとオリーブ漬け、ボロネーゼ、それに恐らく今日の朝から仕込んでくれていたであろうローストビーフが並べられていた。

ワイングラスも置かれていて、今日は本当に何かのパーティーかなと思うほど豪華だ。


「シャンプーとか大丈夫でしたか?」


「うん、ありがとう。てかすごいね、美味しそう。ホテルのレストランみたい」


「俺ホテルのレストランでキッチンしてますけど」


「はは、そうだった」


「まぁあそこはフレンチですけど」


それでも、自分のためだけに作ってくれた料理だと思うと、思わずニヤけてしまう。


晴澄の料理はいつだってそうだ。

こうやって、人の心を温かくする。幸せにする。


私はまんまとその沼からとっくに抜け出せなくなっている。


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言葉が降らないこの場所で すりーぷ @mbb2tphorn

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