39

晴澄に会っていなかった数ヶ月で私はなぜかすごく強くなれた気でいた。


その驕りがこの結果を産んだ。



だから、今日は…もう帰らなくちゃと思った。



「槙江さん」



向けた背中に呼びかけられても、振り返ることができない。


笑えないよ、今…晴澄の前で。



ただ名前を呼ばれるだけで、

こんなにも泣きたくなるのに…。


どんな顔して、励ましてもらえばいい?


悲しいことなんて、

本当は……、


何一つないはずなのに…。



誰かに寄りかかりたくて、仕方ない。

八つ当たりをしたくて、堪らない。




堪えて、振り返った。

なるべく、精一杯の笑顔を貼り付けて。



「ねぇ晴澄聞いて。私ね大学卒業したの」



なるべく、嬉しかったことを思い出して。



「本当は直接言いにいきたかったけど…でもよく考えたら私と晴澄はそこまでの関係じゃなかったかなって思って…」


「………」


「この間ね、いつもお世話になってる出版社の人にお祝いしてもらったの。映画化と卒業の。こだまじゃない居酒屋でも私ご飯食べれたしお酒も飲めた。すごく…美味しかったっ…」


なるべく笑顔でいたい。

なるべく明るい話をしたい。


なのにどうして。


「私…、案外晴澄がいなくても大丈夫みたい」


「………」



どうしてこんな酷いことが言えるんだろう。



どうして…強くいられないんだろう…。


私が脆いのは、逃げてばかりで、

今までちゃんと傷ついてこなかった証拠だ。

傷つくことを知らずに生きてきたから、大したことない言葉がすぐに刺さってしまう。


刺さっても…すぐに抜けたらいい…。

その傷を治す方法に…気づければいい。



それでも私は、

止まったまま…どうしてか動けなくなってしまう…。



だから代わりに…自分じゃない誰かに傷ついてもらうことにした。


自分が立ち上がる勇気を持つのではなく、

優しくて、一緒にしゃがみこんでくれる人。



そうやって…優しくしてくれる人を探して自分を保つことにした。


晴澄は、世話焼きで、優しくて、ちょうどよかったから…。



だから……晴澄に会いたかった。





「じゃあなんで…泣いてるんですか」



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