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「仕事帰りですか?」


突然、肩を優しく叩かれた。


振り返らなくても、声でわかる。



その瞬間、私はやっぱり会いにいかなければよかったと矛盾したことを思った。


晴澄の前で、

うまく笑える自信なんてなかったから。



久々に見た晴澄は、春なのに相変わらず真っ黒な服を着ていて、少し髪が伸びていた。


清潔感に溢れている黒髪に恐ろしいほど映える綺麗で透き通る肌を見て、本当にこの人は健康的で私とは真逆に位置する人間なのだと痛感した。



「うん…。晴澄は買い出し?」


「いえ、今日はバイトなくて。アイス買いに来ました」


「ふっ、いいね」


自分には…、

足りないものがたくさんあるのをわかっている。


「なんか、元気ないですか?」


「そんなことないよ」


「………」


でもそれに気づいてしまったら余計に傷つくのをわかっているからこそ、気づかないふりをした。



だけど、必死に気づかないふりをしている時に、

自分にないものすべてを持ってる人には……、




「じゃあ私帰るね」




出会いたくないと思った。



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