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いつの間にか晴澄は私の目の前に立っていて、

頬の涙を真っ黒な袖で拭ってくれた。


最初は少し乱暴な感じがした。

多分、私の言葉に怒ってる。

だけどその手つきはだんだん優しくなっていって、最終的には私の頬を、大きな手で包み込んだ。


「平気そうに見えないんですよ。全然」


「………」


「ていうか俺は卒業のこと…直接言いにきてもらえるものかと思ってましたよ」


「え…」


「槙江さんが言ったんじゃないですか。美味しい手料理で迎えてほしいって」


「っ」



あれは…、


真冬の、

雪が降る、

寒空の下で、


何気ない会話のようで、



大切な会話だった。


あの時の私は心から笑ってた。


賞を取った時より、

デビューした時より、


人生で1番…幸せだったかもしれない。


だってあの時…私、初めて…、

自分の人生を大切にしたいって思ったーー。



「何日も…何度も、こだまのドアを開けて入ってくる槙江さんを想像して、待ってました」



温かいな…この人は。

“晴澄”という名前は、この人にとてもよく合っている。


いい名前だと思った。

だからそんなに親しくもない時から、あなたをそんな風に呼んでいた。

今だって決して親しいわけじゃない。


だけどまるで最初から胸の隙間の形を知っているみたいに晴澄は優しいから、

そうやって…いつも苦しさを埋めてくれるから…。


もう一度、立ち上がってみようと思ってしまう。




「うそ…だよ」



少し不機嫌そうな顔をしながら私の頬を包む手に、自分の手を重ねた。



「駄目だよ…晴澄がいないと」


「っ」


「駄目だよっ…」



目を閉じて、頬に触れる温もりを感じた。

こんな風に晴澄を感じるのは初めてだ。


もっと触りたい。

遠慮なんかせずに。


深いところまで。


愛したい。

もっと、もっと…。




「酷いこと言って…ごめん」



そのまま晴澄にぎゅっと抱きついた。

体全てを預けるくらい、精一杯両手を伸ばして、晴澄の背中に腕を回した。


晴澄の温もりと香りを全身に浴びて、とてつもない安心感に包まれた。


晴澄は多分少し驚いていたけど、脱力して落ち着いている私を見てポンと頭を撫でてくれた。



本当は、


本当はね、



一緒に傷ついてほしいと思うくらい、





あなたが好きだ。





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