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次の日だった。



わざわざ家まで来た伊原さんから映画化の話がなくなったと聞いたのは。


末端の小説家が書いた作品の映画化という話は、少しでも力を加えればぼろぼろと崩れ落ちてしまうほど脆い足場の上に立っているものなのだと知った。


塙山セツというこの業界で大きな存在からすればその足場一つ壊すことなど容易いものだったのだろう。


まさか翌日に映画化の話がなくなるなんて…想像もしていなかった。



でも黙っていられなかった。

むしろあのまま何も言わずに去っていった塙山先生の背中を見て清々しいとさえ思ったのだから。



私にとっては、多分大したことじゃない。

映画化がしたくて、小説家になったわけじゃないし。

だけど、多方面に迷惑をかけたことは事実で。


制作済みの映画のキャストの中に不祥事を起こした人がいて公開が中止になるパターンを何度かニュースで見たことがある。


それはどこか他人事だと思っていたけど、

まさか当事者になるとは夢にも思っていなかった。



「何してるんですか先生」


「………」


「昨日言ったばっかりですよね…?足をすくわれるって」



もっと怒鳴られて詰められると思ってた。


だけど頭ごなしに言われるというよりは、冷たく淡々と、見損なったような話し方だった。



「ごめんなさい」


「…謝ってほしいわけじゃないです」


「でも…制作も始まってたし…会社の利益も下げちゃって…」


「そういうことを…言ってるんじゃないんですよ」


髪をくしゃっとかきあげて、なんとも言えない表情を浮かべる伊原さんは、私よりも苦しそうに見えた。


そういう伊原さんだから…言われっぱなしが、嫌だったんだけどなぁ。



「あの後塙山先生の担当から聞きました。僕たちを庇ってくれたって」


「………」


「そんなこと、しなくていいんですよ。馬鹿じゃないですか。そんなことでチャンスをなくすなんて」


「馬鹿だとは…思うけど…」


「………」



ひんやりと冷たい空気が流れているのに心臓はうるさい。


清々しいと思っていたはずの気持ちは、時間を追う事に徐々に焦りに変わっていく。


やっぱりよくなかった。

後先考えない発言なんてしなければよかった。


黙っていることができなくても、

黙っていることが正義で、

自分や周りを守るために、大切なことだったかもしれないのに。



「伊原さん…私は、どうしたらいいですか?」


「……はぁ…今回の制作中止は、あくまで制作を決定した側の都合なので違約金などはありません。塙山先生がなんて言って映画の話をなくしたのかはわかりませんが、先生が不祥事を起こしたわけではないですから」


「じゃあ…なにを…」


「なにもすることはないです。ただいつも通りに戻るだけですよ。幸いまだ世間に公表する前でしたし、重版用の帯は印刷終えてたみたいですけど、それくらいは大したことじゃないです」


「でもっ…」


「だからっ…何もできないんですってば!」


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