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声を荒げた伊原さんを初めて見た。
「ごめ…ごめんなさいっ……」
そんな伊原さんを見て私は途端に頭を下げた。
謝る以外の選択肢が言葉が…もう見つからない。
ーー嘘みたいに涙が出る。
悔しいのは…悲しいのは…映画化がなくなったことじゃない。
そんな思いをうまく言葉にできない。
ああ…こんなだから……、
多分私は、作家になったんだ。
現実の私に…、
価値なんてあるんだろうか…。
「自分の担当作家にこんな風に頭下げられて、苦しい気持ちにならない編集なんて…いないですよ」
伊原さんとは知り合って長い。
なんなら晴澄よりも、きっと私を知ってくれてる。
それなのに私は、
ちゃんと伊原さんを知ろうとしていただろうか。
中途半端で優柔不断な私に毒を吐きながら、
一体どんな気持ちでいつも私に向き合ってくれてたんだろう。
それを、少しでも考えたことがあっただろうか。
鼻を啜って、頭を上げて、真っ赤になっているであろう瞳で伊原さんを見た。
伊原さんは…私と同じように、目を赤くしていた。
“素直に言ったらどうですか?柊麻美に小説家を今辞められたら自分たちの生活にも関わってくるって”
あんな風に言う人のくせに……。
私のこと、いつも面倒くさそうにするくせに。
どうしてこの人が、今…1番苦しそうなんだろう。
私のために…一緒に、苦しんでくれるんだろう。
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