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こういう時、晴澄は怖がっている私を絶対に馬鹿にしたりしない。
わかってる…わかってるから、甘えちゃうんだよ。
「お待たせ、槙江ちゃん。ごめんね遅くなって」
「いえっ全然」
「晴澄もお疲れ」
「お疲れ様です」
皐月さんがこないで、そのまま晴澄の目を見ていたら、危うく吸い込まれるところだった。
それくらい晴澄は、真剣に私を心配して、応援してくれている。
だから絶対に失敗できないと思った。
「予約の通りコース料理でいいですか?」
「うん、ありがと。頼むよ」
晴澄は軽く会釈した後、キッチンの方へ戻ってしまった。
晴澄が働くこのレストランはホテルの中に入っているけれど、どちらかというとカジュアルな雰囲気で、フォーマルな格好でなくても気軽に入れるオシャレなレストランだった。
カップルもいればファミリー層も多くいて、ホテルに泊まっている小さな子供も美味しい食事を楽しんでいた。
それでも皐月さんは、いつもよりオシャレにしていて、ラフに着こなしたジャケットがスタイルのいい身体によく似合っていた。
「皐月さん、雰囲気違いますね」
「ちょっと気合いいれてきた」
「土捏れます?」
「大丈夫、ジャケットの下ただのロンTだから。槙江ちゃんこそ可愛いスカートなのに」
「私はエプロン持ってきました」
「準備良」
そんな他愛ない話をしていると、コース料理が次々と運ばれてきた。
前にアプリで知り合った人と食べた料理より1ランク上のコースだった。
どれも美味しくて、全てではないことはわかっているけれどやっぱり晴澄が作った料理はなんの心置きなく食べられると思った。
最後のデザートを食べている時、晴澄がキッチンから出てきた。
私たちに用があったわけではなく、常連で通っている家族を見送りに出てきたようだった。
いつもは無愛想な雰囲気が漂っているけれど、
小さな子供を軽々と抱き上げて、楽しそうに話している姿は今まで見てきたどの晴澄とも違う。
それに私が見ている晴澄は、こだまでも外でもいつも真っ黒な服装をしてるから、
あんな風に真っ白な服装を身に纏って髪を整えている姿を見ると、
どうしても違和感を覚えてしまう。
違和感…というか……。
「槙江ちゃん?」
「え」
私は気づいたら、晴澄をじっと見つめて皐月さんとの会話を止めてしまっていた。
「あ、すみません。ぼーっとしてました」
「晴澄が、気になる?」
「え、あ、いや…」
「ふっ、どっち?」
「…新鮮です。ああいう晴澄は」
「…仲良いんだね。ちょっと妬ける」
「え」
「出よっか」
皐月さんはデザートを食べ終えてなかった。
だけど足早に出口の方へ向かってしまう。
私も慌てて追いかけるけど、そのまま晴澄の前を通過して店を出てしまった。
晴澄はそれに気づいたけど、引き留めはしなかった。
「すみません、お会計」
「もういただいてますので、ありがとうございました」
レジにいた店員の女性からコートを受け取り、晴澄にお礼も言えないまま私も外に出た。
「皐月さん、ごめんなさい。不快な思いをさせちゃって」
「いやいやごめん!子供っぽいヤキモチ妬いて。早く2人になりたくて」
皐月さんは私より年上だけど、どちらかというと可愛らしい顔をしていて、今も少し子供っぽく落ち込んでいる。
そんな愛くるしさに思わず笑みが溢れて、スマートにお会計を済ませてくれていたことにお礼を言うと、今度は照れくさそうに笑った。
陶芸教室は電車で30分乗ったところにあった。
家族づれや友人同士で体験に来てる人もいれば、もちろんカップルもいる。
実は一度取材で陶芸をしたことがあった私はろくろで割と簡単に目当てだった茶碗を作ることができた。
皐月さんは初体験だったようでろくろは難しく、手捻りでどんぶりサイズの器を作っていた。
「難しい」
「でも上手ですよ」
「槙江ちゃん器用だね」
…ネックレスを作った時、
晴澄もそう言ってくれた気がする。
いや、言ってないかも。
でも…あの時は楽しかった。
もちろん今も楽しいんだけど。
あの時は…ビーズを通す私を晴澄がじっと見てて……、
ちょっと…落ち着かなくて。
「何作ってるの?」
「こだまで使う私専用のお皿です」
「あーそういえば聞きたかったんだけど、こだまの女将さんて、槙江ちゃんのお母さん?」
「はい、でも…」
「へーあんまり似てないんだね」
「………」
…似てないのは当然だ。
本当のお母さんじゃないし。
だけどサトリさんとお母さんは、どこか雰囲気が似ている。
だからもし、本当のお母さんが今と同じ状況でも、きっと同じことを言われただろう。
「槙江ちゃんはお父さん似なんだね」
「……そうですね」
…そう…なのだろうか。
自分ではよくわからない。
わからないのに、考えないままきてしまった。
家族は大切だ。
死んだお母さんも、お父さんも、サトリさんも。
でも…大切だからこそ、向き合いたくないものだってあると思う。
向き合ってしまったら…その愛しさや悲しみから逃げられないことを、わかっているから。
向き合わなければ、知らないのと一緒だから。
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