張り詰めた糸
17
私の母親は学生時代、素行が悪く所謂“レディース”と呼ばれるものに所属していたらしい。
金髪の長い髪をノーヘルで靡かせて、バイクを乗り回し、補導された回数は数知れず。
対して父は、勉強家で真面目な性格だった。
しかし真面目に見えるだけのただの変人で、
母がバイクを乗り回す姿を見て一目惚れし、猛アピールしたそう。
母はそんな父を豪快に笑い飛ばし、
そんな母の笑顔が父は大好きだった。
…なんて綺麗な昔話を適当な父から聞いた時、
私は多分…無反応だったと思う。
私が産まれて1年経った頃。
母は切らせたミルクをバイクで買いに行き、その道中で事故に遭った。
私を寝かしつけて、その隙に慌てて行ったらしい。
1歳の娘を1人放置して、出掛けるのはどうかと思うけど、
豪快な母らしい、最期だったのかもしれない。
どんな人かは知らない。
だけどたまに夢に出てくる母は、
今の私を見て、
痛いくらい背中をドンドンと叩いて、
「いっぱい食べて、いっぱい寝ろよ」
と、笑ってくれることが多かった気がした。
ーー目を覚ますと自分の家のベッドで寝ていた。
晴澄と出かけた翌日の夕方だった。
「晴澄…?」
体を起こして、いるはずのない晴澄の名前を呼んだ。
当然返事はなく、あちこちに散らばった服と、どうやって持って帰ってきたかも覚えていない鞄が机の上に置かれていた。
その中からスマホを取り出すと、メッセージが2件入っていた。
1つは晴澄からで、鍵がドアポストに入っているという趣旨の伝言だった。
それを見て、晴澄に送ってもらったのだと気づいたと同時に、この散らかった部屋を見られたのかと絶望した。
そしてもう1件のメッセージは一瀬さんからだった。
“少しだけでも、会えませんか?”
控えめなメッセージから、一瀬さんの謙虚さを感じる。
こんな風に言ってもらえて、晴澄にも協力してもらって、これ以上…何を望むんだろう。
不安が拭い切れたわけじゃない。
自分が健康になったわけでもない。
それでも…少しだけ、恐怖は消えた。
真剣に接してくれる人に対して、
私も真剣に返さなければいけないと思った。
“私も、会いたいです”
5分くらい悩んで、ようやくその一文を送った。
前に進むんだ。
少しずつでもいい。
小さな一歩でいい。
私はそうやって、何度も諦めそうになった執筆も頑張ってきたはずだから。
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