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…人との関わりを避けている人だと思ってた。


でも槙江さんは昔から俺をそう呼ぶ。


本当に関わりたくないと思っていたら、そんな風には俺を呼ばないんじゃないかって…思ったりもするんだ。



夜中の真っ暗な背景に立っている槙江さんはほぼ部屋着のような格好で、手には特に何も持っていなかった。


「こんな時間に何してるんですか?」


「夜の散歩…てかこっちの台詞だよ。どうしたの?」


「もう0時過ぎてますよ。危ないじゃないですか」


「いつもしてるから大丈夫だよ。とりあえず中入って」


信じられなかった。

この辺りは人気もないし、実際治安も良くない。

大学生の女の人が部屋着でふらふらするなんて。

危ないにも程がある。


それに、この人は平気でそんなに親しくもない男を部屋にいれるんだ。



「玄関じゃなくて中入っていいよ」


「いやここでいいです。ちょっと聞きたいことがあって来ただけなんで」


「あー…」


もう何を言われるか察しているかのように、槙江さんは気まずそうな顔をした。


ゆっくり近寄ってくる槙江さんからはシャンプーの香りがして、もうお風呂上がりなのがわかった。

危機感……。



「率直に聞きます。皐月さん、ダメでしたか?」


「え、いや、ダメじゃないよ!ダメなのは私の方で…」


「じゃあなにかありました?」


「………」



下を向く槙江さんのつむじが見えた。

頭が小さい。

ていうか身体が細い。

心配になるくらい。


「私がダメ人間だって…一瀬さんは知ってる?晴澄…言った?」


「なんのこと?」


「まともな生活できてないって…」


「いや言ってないですけど…」


槙江さんはそれを聞いて、泣きそうになりながら安心したように大きなため息をつく。



「……全然、眠れないの。楽しいと思うほど、どうしても眠れなくて…お腹も空かなくて…」


「………」


「そもそも私人とこんな風に会ったり話したりするのも初めてで…その……恋してるから…って言われたら、そうなのかもしれないけど……でも…そんな駄目な自分がバレたらって思うと怖くて……」


恥ずかしそうに、でも誤魔化すように苦く笑いながら口元を隠す手は微かに震えていた。

知り合った頃より明らかに細くなっている指先。


槙江さんのことはサトリさんたちからかなり昔になんとなく聞いていた。

そんな風に生活に悩んでいる人がいるんだと、どこか他人事だった。


食事にも運動にも睡眠にも特に滞り感じたことがない自分には無縁な悩みだとさえ思った。


だけど実際はそんなの感じさせないくらい本当はよく笑う人で、話したことはなくても…ちゃんと俺の作った料理を残さず食べてくれる。



それこそ、皐月さんに槙江さんの気にしている部分を話す必要なんてないくらい…君は明るい人のように思っていた。



「そっか…言ってなかったんだ…」


「気にしてたんですか?」


「気にするよー…だって変だもん。薬を飲んで、お酒を飲んで、夜に散歩して体力削いで…」


「っ」


「知られたら…嫌われる。1日一緒にいて、気を張ってられる自信がない」



ーー美人で…才能があって…仕事も順調で、

何も悩みがない人……。




そんなわけないのに。




ていうか皐月さん、好感触ですよ。

ちゃんと想われてる。





「じゃあ…俺と練習しませんか?」



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