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お客さんかなと思いそっちを向くと、バイトの晴澄が小さく挨拶をしながら入ってきた。
「おはようございます」
「おはよー。
「閉店ギリギリでしたけど」
「ないすー」
…サトリさんがこの長い爪で苦手な料理をスナックで提供できるのは、この晴澄のおかげだ。
「槙江さん、来てたんですか」
「うん。昨日の残り少し食べた。美味しかった。ありがとう」
「よかったです」
晴澄は私の2個年下だ。
地方から上京してきて数年ここでバイトをしている。
とにかく時給が高いところを探していたらしい。
バイトっていうかほぼ正社員みたいな扱いで適当なうちの両親にキッチンを任されて、
今は調理の専門を卒業して確か都内のホテルに入ってるレストランに就職したって聞いた。
他にもバイトは何人かいるけど料理が苦手なサトリさんにせがまれて、好意で副業のような形のままこのバイトを続けてくれている。
本職にバレたらやばいんじゃないだろうか。
知り合ってからはそこそこ長いけど、実は世間話程度でしっかり話した事はない。
私からみれば晴澄は基本無口で何を考えてるかわからない人。
だけど人当たりが悪いわけではなく、お客さんやサトリさんとは普通に話す。
なんならかなり人気者で顔も整っているし背も高いしそれだけじゃなくて、爪とか、髪とか、そういう些細な部分にちゃんと気を遣って生活している感が漂っている。
晴澄からしたら私みたいなガサツで生活能力がなくて加えて愛想までないような人信じられないんだろうな。
私の事情を知っているかどうかもよくわからないけど。
スナックを出ると外は真っ暗で生温い風が吹いていた。
10月。
夜はもう、アウターを羽織らないと寒い。
ちょっと手も乾燥する気がする。
そう思って自分の手を見ると、乾燥よりもその細さが気になった。
なんかまた、細くなったような気がしたから。
「怖…」
別にどこか痛いわけでも、具合が悪いわけでもない。
ただ眠れないだけ。
ただ人より食べたり、食べなかったりが激しいだけ。
大丈夫。
大丈夫。
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