第10話 第一次グレンツグラーベンメーア海戦・前編

 グレンツグラーベンメーア。魔大陸とヴァルデシア大陸を隔てる海域。深い海溝により海流が乱れ、それぞれの大陸からの風により気流も乱れる海域。船乗りからすれば最も通りたくない海域の一つ。だが、海戦となればここ以上に最適な場所はない。両軍は、そう判断した。


 奇しくもこの海域は両軍の強みをぶっ潰すとんでもない海域だったのだ。特に赤道付近の海域・コードネームTG4Sβ、通称「城門」は常に凄まじい熱帯低気圧が発生しているだけでなく海溝がV字型になっている影響で特に海流が乱れており、ついでにそこそこ大きな島があるためかなりの乱戦になった。


 グレンツグラーベンメーアは、偏西風と魔大陸の逆V字型の山脈による南西の風と高い海面温度により常に雨が振っている地帯。その結果、彼の目はうまく機能しなかったそうだ。彼によれば、


「あの海域では、指向性と簡素化の都合上からトリプルクロスアンテナによる円偏波の電子スキャンレーダーでは、というよりレーダーではマトモに探知出来なかった。」


 そうだ。何言ってるかはさておき、彼の長距離攻撃というアドバンテージは潰れたわけである。だが、連合軍のアドバンテージも同時に潰れた。この海域はかなり海が荒れる。つまり艦隊行動や集団戦法が取れないのだ。また彼の無人艦隊は数が少なく連戦せざる終えなかった。このような特性よりこの海域は地獄と化した訳である。


 ......相変わらず彼に損害はないが。


 この海戦において最も戦果を上げたのはP101級ミサイル艇であった。元が近距離戦用、このレーダーが効かない状況であっても高速で移動し目標を探知するという行動のおかげで一定の戦果が出せたのだ。これらは例えるなら戦闘機であり、ファイターだ。そもそも遠距離が封じられている時点でP201・オクローン級やP301・ザルヤ級の活動はあまり期待できない。小回りの効くP101・トリスカー級が一番であっただけのことだ。また、オクローン級やザルヤ級もグレンツグラーベンメーアを突破した敵船に対しては非常に効果的であった。


 一方帆船で構成された連合軍の有効射程はせいぜい数百メートル、そこまで接近するのは至難の技であった。だが、風と数を味方に付けた者たちの一部はP101級の艦船に命中弾を与えている。


 だが結局のところ撃沈は0。命中弾といってもほとんど損害は無かった。やはりある程度の近距離でも、彼の言う近距離と我々の近距離では大きな差があるのだ。



 それを踏まえ、この戦いを見てみよう。


 まず、魔族の侵攻を察知した彼は、無人艦隊を出撃させた。それぞれの戦力は、


・連合軍

 4等戦列艦:621隻

  武装:9ポンド砲22門、18ポンド砲22門、6ポンド砲6門

  排水量2700トン


 3等戦列艦:415隻

  武装:18ポンド砲30門、36ポンド砲28門、8ポンド砲16門

  排水量3200トン


 2等戦列艦:342隻

  武装:12ポンド砲30門、18ポンド砲30門、32ポンド砲28門、12ポンド砲10門

  排水量3500トン


 1等戦列艦:198隻

  武装:12ポンド砲32門、24ポンド砲32門、36ポンド砲30門、6ポンド砲16門

  排水量3800トン


・無人艦隊

 P101級ミサイル艇:256隻

  武装:短距離対艦ミサイル20発

  排水量230トン


 P201級ミサイル駆逐艦:8隻

  武装:長距離対艦ミサイルおよび長距離防空ミサイル合計110発、近距離対艦ミサイル62発、近距離防空ミサイル80発

  排水量7500トン


 P301級ミサイル巡洋艦:4隻

  武装:長距離対艦ミサイルおよび長距離防空ミサイル合計320発、近距離対艦ミサイル96発、近距離防空ミサイル160発

  排水量9600トン



 である。さすがは圧倒的力を持つ大陸、戦力が段違いだ。逆になぜ彼がこんなに戦力を用意出来たのかが謎だ。


 そしてこの戦いは連合軍の4等戦列艦が雷雲の隙間から彼の探知域に入ったことから始まった。P101級は軽く、そして馬鹿みたいに速い。結果数十分で最初の十数隻が海域に侵入、前哨戦が始まった。


 いくら激しい嵐とはいえ彼の目は半径5kmは探知可能、そのため多数の4等艦がレーダーに探知され対艦ミサイルを発射された。もうめんどくさいから彼の呼称で言おう。それ以外となると長ったらしくてたまらん。


 だが、相手には数と排水量がある。武装が多いのだ。4等艦は全速で接近し、砲撃しようとしていた。だがしかし速度でP101級に勝てる訳がなかった。結局、前哨戦は彼の勝ちであった。

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