第9話 魔族と魔大陸、そして無駄な足掻き

 人類は魔族に助けを求めた。普段なら魔族側も応じるわけは無かったが、この場合は事情が違う。


 当時、ほとんどのヴァルデシアの国家は一斉に攻撃し敗走しており、小規模の散発的な抵抗を続けていた。そのため彼は広大な絶対防衛識別圏を取っていたのだ。その結果、魔族の偵察部はまさかそんな遠距離から探知されるとは思っていないためヴァルデシア大陸に接近、その部隊は片っ端からFMSで吹っ飛ばされていた。


 その状況と人類側の証言、"我々ではとても勝てない敵がいる。近い将来、君たちにも被害が出るはずだ" という言葉を驚くべきことに素直に信じた。そのため前例のない人類魔族共同戦線が発足したのである。


 ともあれ、魔族は彼らの味方となった。魔族と人間では根本的な能力と多様性が異なる。身体能力的な部分で人間より圧倒的な利があるのだ。彼ら連合軍もこれなら勝てると思ったことだろう。




——だが彼らはとある事を忘れていた。彼の絶対防衛識別圏と、戦いが洋上で起こるであろうことである。


 彼の言う "計算機資源" は日々進化しており、能力が向上していた。その為彼はとあるシステムを構築していた。


 半自動統合迎撃システム。彼が生み出した目、頭、手を連結するシステムだ。これにより彼は自宅で壁を見ながらボタンを押すだけで良くなった。そしてそれとほぼ同時期に、彼による無人艦隊が組織された。初の海上戦力である。


 当時の彼の主力海上戦力、P101、P201、P301級と、それらに搭載されていた演算システムというものを彼の日記より引用しつつ見てみよう。にしても、彼はなぜか探知において円にこだわりがあるらしい。なんでだろうな?


———

・P101 "Triska"-class Guided missile boat トリスカー級ミサイル艇

 軽量高速な艦で、高火力で短射程な対艦ミサイルが主武装。8bitを6コア、16bitを4コア持つ。弾数もないため、特定の一艦を目標と定めたらそれに向かい突っ走る。


・P201 "Okhron"-class Guided missile destroyer オクローン級ミサイル駆逐艦

 比較的高速な艦で、長射程対艦ミサイルと長距離対空ミサイルを搭載、レーダーも強力なものを搭載している。8bitが20コア、16bitが16コア。


・P301 Zarya-class Guided missile cruiser ザルヤ級ミサイル巡洋艦

 大型の船体、大規模な計算機を持つ艦の司令塔。短距離および長距離対空ミサイル、長距離対艦ミサイルを搭載している。8bitが56コア、16bitが42コア。


・LUTs4bitP

 入力4bit*2、出力5bitのルックアップテーブル(A)と入力5bit+繰り上がり2bit、出力6bitの+1、+2のルックアップテーブル(B)を持つ8bitおよび16bitプロセッサー。


 ルックアップテーブルの記憶部には出力bit数分のダイオードマトリクス、つまりAは5枚、Bは6枚のダイオードマトリクスを持つ。キルヒホッフの法則よりデコーダさえ分ければ併用可能のためABそれぞれ1セットずつの記憶部を持ち、コア数は理論上無限に増やせる。


 8bit版

 1コアあたりAは2セット、Bは1セットのデコーダを持つ。8bitの入力は4bitずつに分解されそれぞれAに入り、下4bitを計算した5bit目をBの繰り上がりの部分に入力、上4bitを計算したものをBに入力、それぞれの下4bitを出力することで加算する。


 16bit版

 1コアあたりAは4セット、Bは3セットのデコーダを持つ。分かりにくいので下の桁からA1、A2、A3、A4が計算するとして、まずA1が計算、5bit目をBの繰り上がりに入力、そこにA2の計算結果を入力、その計算結果の5,6bit目をBの繰り上がりに入力、そこにA3の計算結果を入力、その計算結果の5,6bit目をBの繰り上がりに入力、そこにA4の計算結果を入力、これらの計算結果の下4bitを組み合わせると16bitの加算ができる。


 それぞれ同じLUTを使うため同じCPU内に共存させることも可能。

———


 何を言っているか分からないのはいつもの事、ここからなにが分かるか考えようか。まず一番低性能と思われるP101型でさえマトモに戦えば死だ。そして人が乗っていない、すなわち自動で戦闘可能であることを示す。また、人的損耗もないために即座に復活してくることが予想される。


 そして、一番の恐怖は半自動迎撃システムと組み合わさることにある。それにより識別圏に入ってきた者はほぼ自動的に抹殺される。恐ろしいものだなホント。魔族はいくら硬い上死ににくいとは言えど攻撃出来なければどうしようもない。ひたすら突撃し、ひたすら迎撃されるという極めて不毛な、無駄な足掻きが繰り返されることになったのである。

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