第7話 群雄割拠すら出来ぬ時代
彼の攻撃によって連合軍は壊滅した。だが、具体的に何がマズいのか君たちはよくわからないだろう。私も学生をやってた頃はそう思っていたよ。まあ今言ってもあんまり意味がないことは分かってる。だがな、教授という建前上言わない訳にはいかんのだよ。
連合軍は紀元前2年4月25日に総攻撃を決行した。兵力はそれぞれ陸150万、海20万、空6万という凄まじい大戦力で行われた。これは当時の西ヴェルデシア大陸の人口6800万人からするとほぼ限界に近い数値であった。ドレイセンはヴァルデシア大陸の西端の北半分に位置しており、南半分はウエストバニア連合王国である。彼の土地は西端の半島にあり、陸軍はウエストバニア経由の南方軍と旧ドレイゼン経由の北方軍それぞれ75万ずつ。海軍は季節風の影響で南回りで進軍、空軍は南方軍に同行した。
さて、どこから話そうかな。どうせ全滅したから変わらんのだが、まあ陸軍から話を始めよう。
陸軍は、いやその他の軍もそうだが話が短い。気づかれた瞬間に、 "彼の光" でちゅどんだ。
海軍は、煙を吐く光の矢が直撃して全滅。
空軍も同様だ。
彼らはこれを鉄の鳥と呼んだそうだ。
結局だな、何が言いたいかというと、"彼" に探知されたら終わりなんだ。たとえ1600年たったとしてもな。この世界に好戦的な種族はこのヴァルデシア大陸の中はその他の大陸に比べ異常に少ない。なんでか分かるか?
そう、彼に表立って歯向かい、消されたからだ。良いか? 歴史を学ばぬ者は死ぬ。特にこの世界ではな。このことから我々が学ぶべきことはなんだ?
「探知されたら終わり」
——この単純な事実こそが、1600年間、この世界を縛り続けてきた鎖なのだ。だが、ではどうやって "彼" は、あの広大な地域に展開した百万を超える連合軍の動きを、詳細に、そして瞬時に把握できたのか? 当時の技術レベルからすれば、それはまさしく神の視点としか言いようがなかっただろう。我々もまた、この「探知システム」の解明に、多大な資源と時間を費やしてきた。そして、少しずつではあるが、その恐るべき真実が見え始めている。
彼の初期の日記には、奇妙な記述がある。
「探知するなら、やはり波が一番だ。それには2つ方法がある。電磁波と、重力波だ。だが、技術開発の終わっている電磁波と違い、重力波の探知は難しい。当然アクティブ方式は無理だが、魔法があるこの世界ならば仮想のセンサー自体を振動するように動かせば探知できるはずだ。光格子時計のような時計を魔法で作れたなら、それが可能となる。そこから事前に測量した重力とおかしなポイントがあれば、複数のセンサーで観測し三角測量すれば目標を探知可能なはず。また単純に光格子時計を大量にならべるだけでも重力の歪みは探知できるはずだ。理論的には、アレイレーダーも応用し10平方キロ高さ10mに2m間隔ぐらいで固定式光格子時計を設置すれば大型目標、たとえば艦隊や陸軍の部隊なら20~50km、航空機なら5~10kmで探知可能なはず。理論限界はもうすこしあるはずだ。または、レーザー干渉計を同様に2m間隔で走らせ、積層すれば同様の効果が得られるはず。光ファイバー方式ならなお数が設けられ技術レベルが下がるはずだ。名付けるならCAIかな?」
これだ。この「重力波」とやらの概念が、我々にはまるで理解できない。だが、彼にとっては、それが目や耳のようなものとして機能したに違いない。彼は、重力をもっと根源的に理解しているのだ。
そして、連合軍が総攻撃を開始した時、ヴァルトハイムの空には既に、小さな気球のようなものが無数に浮いていたという証言が残っている。それは、見た目こそ牧歌的であったが、その内部に探知機と、自動で解析する脳、すなわち彼の言う自動処理システムが搭載されていたのだろう。彼の言葉で言うなら、"HAPS" か?
まあいい。おそらくだが、これらが現在のヴァルトハイムの "絶対防衛識別圏" を構築する監視網の原点であると考えている。陸、海、空、あらゆる場所の情報をリアルタイムで集約し、彼の兵器群へと指示を送る。彼らは、暗闇の中で手探りで進む敵を、まるで真昼の如く見通していたのだ。そして、その情報は、瞬時に彼の兵器群へと伝達され、あの結果に繋がったのだろう。
恐ろしいことに、彼の死後1600年経った今でも、我々の放った探査機は、この探知網から逃れることはできていない。ヴァルトハイムは、まるで巨大な生命体のように、今も進化を続けているのだ。
我々は、見えざる眼に常に見つめられている。そして、その "眼" に気づかれた瞬間に、終わりが訪れる。この理不尽なまでの監視体制こそが、群雄割拠すら出来ぬ時代を永続させている真の理由なのだ。
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