第3話 あの時、潰せていれば
先述した通り、彼の目的は家族の防衛だ。故にこれは防衛戦争であったのだ。そして、彼の主張した領土はわずか40平方km。戦争初期の段階で連合軍が数で押し切れば勝ちであり、我々は自由であった。
「ドレイゼン国境の戦い」。元々ドレイゼンの隅にあった彼の領地に対し、ドレイゼンからの侵入は開戦時の攻撃によって不可能であったため連合軍が国境沿いに集結した事によって始まった戦いである。初期は、数で押せていた。また、制空権争いもまだ終わっていなかった。彼の兵器開発はこの時滞っており、この頃しか使われていなかった近距離防衛兵器と思われる、 我々が使う物より圧倒的に高性能な銃および砲を防衛用に使っていた。彼の日記には、
「——新兵器の構想自体は出来ている。だが技術開発が終わっていない。"対数表" や "三角関数表" がなければなにも出来ない。おそらく "物理定数" はほぼ同じだが、しかし計算する手段と自動化するための資源がない。」
とある。どうやら彼には何らかの数値や表が足りていなかったようだ。おそらく今の自動戦闘はこの頃の構想であったのだろう。我々には理解できないが、少なくとも彼は神と形容されても神では無かったようだ。とはいっても彼が明らかに我々に強く、そして勝てなかった。少なくとも我々が勝てる相手では無かったようだ。
この戦いは、"彼の光" の前段階の初使用で幕を閉じることになる。彼の日記には、
「"デイビー・クロケット" を模した "軽量核迫撃砲" は多大な成果を上げた。やはり "放射線兵器" および "核兵器" は安く加害を与えやすい。またこの世界の魔法はかなり制御しやすいし、そもそも魔法があるだけで加工精度や速度が段違いだ。物質も生成できる。 "プルトニウム" なども生成可能だから核兵器を安価に量産でき非常によろしい。」
とある。あいも変わらず何言ってるかわからないが、彼がマメな正確で良かったよ。彼は兵器に関する資料を徹底的に書き残している。もちろん、ほとんどはヴェルハイムにあるが一部は見れる。意味不明でも彼が考えて兵器を作っており、それは我々にも再現可能である、たった一人にのみ許された力などではないということだからだ。
...とはいえ我々の技術力や学問じゃ数式が何を指しているのかさえわからないし、どういう法則を使っているのかも一切不明だが。
だがそもそもが1600年前の戦争、記録は大量にあれど彼以外にそもそも科学という概念すら無かった時代に起こったこの戦争の兵器を解析することはかなり難しい。当時の "彼" の兵器はまだ完璧ではなく、故に解析できる可能性があった。しかし今になっては一国をすぐに滅ぼせる圧倒的な国際秩序を形成している。当時の彼の兵器の証言は、不確かとはいえ数少ない情報の一つなのだ。
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