第2話 理不尽の原点

 すべての始まりは、 "The man" が生まれたこと、そしてその家が迫害されていたことであった。あの下級貴族の家が迫害されていなかったら歴史は変わっていただろう。家族を守るために彼は独立するという選択肢を取ったのだから。


 当時、そこはドレイゼン帝国の支配下で、ドレイゼンは侵略国家として有名であった。今では名前も分からぬその下級貴族の家は、民族浄化政策の餌食になろうとしていたのだ。当時の "The man" はただの家に籠もって考え事をしている内向的な少年であった。だが、彼はその時から家族を守る方法を考えていたのかもしれない。


 処刑対称にこの家が選ばれた瞬間、彼は行動に移した。大量の兵器で武装し、独立を宣言した。当時のドレイゼン等各国はただの悪あがきだと思ったことだろう。しかし、数日後。彼の家から飛び立った謎の物体。それが "The man" の恐ろしさの始まりであった。突如ドレイゼン帝都が火で包まれたのだ。それを追うように次々と出火する都市たち。一瞬で崩壊した大国。そしてそれを成したたった一人の15歳の少年。国際世論が彼を抹殺することが最優先事項としたのも、今の国際秩序を見ても当然のことであっただろう。


 彼の日記には、


「僕は、かねてより計画していた "Finger Missile System" を実際に使用してみた。予想通り、彼らは "Radio Station Buoy" に気づかず直撃を許したようだった。彼らの技術力は予想よりも低いのかもしれない。」


 私は正直、お前が異常なだけだ、と思うが。お前の頭の中が化け物なんだよ、ともな。ともあれ彼は国を滅ぼす力を手に入れた。だがもちろん各国が対策しないはずもなく、すぐにこの "FMS" とやらの弱点を見抜いた。それは速度が遅くワイバーンなどの竜騎兵を使えば迎撃可能であり、"The man" が制空権を持っていなかったことも一因だ。この出来事は、「ドレイゼンの滅亡」と「"The man" の登場」として教科書に乗っているから知っている人も多いだろう。なんなら世界史の最初で習う内容だからな。


 彼も、別に万能では無かったはずなのだ。ならばこの "FMS" に弱点があることの説明がつかない。我々が彼に比べてあまりにも弱かっただけの話だ。教科書にも乗っており、神聖国のスローガンにもなっている言葉がこの時生まれた。


「僕は、あらゆる手段を以て家族を守る。そのためであれば周りが死滅することも厭わない。」


 その頃であった。神聖国の象徴、セル状の兵器を生み出す建物が生まれ始めたのは。その後、彼の攻撃は熾烈を極めた。


 どの国家も、15歳の少年一人に対し数以外の有効な対策が打てなかった。当時、いくら歴史に名を残す天才が多かったとはいえ彼は別格であった。しかしその天才の中にはいち早く降伏する者も多かった。彼らは頭が回ったのだろう。この体制を予測していたのだ。数カ月後、鉄の鳥と竜騎兵による本格的な戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る