第1章 第6話 自己紹介
そうして、自己紹介が始まった。
「まずは運転手が、
運転中であるため、少し手を挙げるだけの反応であった。
「そして、私が
「「え……藤花?!」」
俺たちは、驚きの声を上げる。
それは、当然のことだ。
ヒーローにとって欠かせない存在である「機体」。
これを開発したのが「藤花
彼の生涯は、謎に包まれている。
何しろバグが現れるようになってから、わずか一年で最初の機体を生み出しているのだ。
その後も機体は次々とアップデートされ、今では第三世代の機体が主力となっている。
もちろん他国でも、製造が試みられている。
しかし、成功した例はせいぜい第二世代前半程度の性能であり、彼が作り出すものには到底及ばない。
そのため日本の機体は、外交において最強レベルの品目として扱われている。
少なくとも日本のヒーローにとって、彼は救世主と評されても過言ではない。
他国のヒーローと比較して、明らかに戦死者が少ないのだ。
もちろん一定の死者、行方不明者が出ることは避けられないのだが。
謎を深めている理由の一つが、親が故人となっていることだ。
つまり、ほぼ単独で機体を作りだし、量産する体制を整えたということになる。
その拠点として選ばれたのが、シズオカであった。
また、確認されている限りにおいて、肉親は妹が一人だけである。
妹の名前は「舞」。
藤花の姓を持つもので、舞という名前の人物はほかに存在していない。
「なぜそんな人が、高校の教師に!?」
結希の言葉がまさに、俺たちの疑問を代弁していた。
VIPという言葉では表しきれない、雲の上すぎる存在。
それがハイレベルなところとはいえ、一高校の担任をするというのは、にわかに信じがたい。
「まあ、色々とあるのよ。フジ中央高校に配属されたら、よろしくお願いするわね」
結希の疑問は、はぐらかされてしまった。
簡単に答えられるような理由でないことは、容易に推測できる。
続けて問いの声が上がることは、無かった。
「次に、こちら……は、無理そうね。そちらの男性からどうぞ」
マリンブルーの機体から降りた少女は、意識を失っていた。
たった一人で、あの絶望的な存在からコクーンを守り続けていたのだ。
こうなるのも、当然だろう。
指名されたので、俺も自己紹介を行うことにした。
「俺の名前は、
胃から、すっぱいものがこみあげてくる。
強烈な肘打ちによって、強制的に終了させられることになった。
「僕の名前は、
「「え~~!!」」
バスの中に、驚きの声が広がる。
舞を含めて全員が、女性として認識していたようだ。
「うぉ~! リアル男の娘、キタ~!!」
オレンジ髪の少女が、奇声を上げる。
直後、隣の赤髪少女がゲンコツを飛ばし、頭を抱えて悶絶することになる。
家でさんざん行われている、俺たちのやり取りに似た風景であった。
「じゃあ次は、あたしだな。
赤髪の少女が自己紹介を行い、最後に拳に息を吹きかけた。
バグに対する突撃の威力は、今なお強く印象に残っている。
打ち下ろす形で、あの拳をまともに受けたオレンジ髪の少女、大丈夫なのだろうか……?
「あ、忘れてた。ありがとう、舞先生! あたしの傷も、完治したから!」
ブースターが壊れた後の、あのボールのような状態を思い出す。
下手をすれば意識を失いかねないほどの、ショックとダメージだったはずだ。
それが完全回復……舞の技量の凄まじさを、改めて実感する。
「次は
続けて、青髪の少女が自己紹介を行いつつ、少し首をかしげてこちらに問いかけてきた。
姓が異なることに対し、疑問を抱いたようである。
「うん。僕たちは兄弟だよ。まあ、血は繋がっていないけれどね」
「ちなみに結希だけではなく、俺の方も養子だ」
聞かれたことに対し、先回りして答えておく。
神崎家の二人が養子であることは、調べればすぐに分かることだからだ。
「それでは、最後にオレンジ髪の子だけれども……頭、大丈夫?」
「言い方に、悪意を感じるにゃ!」
まあ、こうして受け答えができるということは、大丈夫ということだろう。
「私は、
……かなり、個性的な子のようだ。
頭に黒の、ネコミミカチューシャを装着している。
試験に行く恰好とは、思えない。
「……その格好としゃべり方は、素なのか?」
俺は思わず、問いかけてしまった。
「普段からこれだにゃ。楽しいことが好きだから、いつもお祭り気分でいたいのにゃ」
このしゃべり方、そして声。
つい昨日、聞いていたことを思い出す。
「えっと、もしかして……マオ?」
「にゃ! ということは、クラージュとカササギ、ということかにゃ!」
これはもう、間違いない。
「ブレイブ&ウィッシュ」でメンバーを組んでいる、マオが目の前の少女だ。
世間は広いようで狭い、という言葉が脳裏に浮かぶ。
「はい、学校についたわよ。この子は介抱するから、他の子は受付に急いで!」
車が停止し、舞が俺たちに声をかけた。
いよいよ、ヒーロー試験が始まる。
相手は誰になるのか。
そして予備の機体は、上手く動かせるだろうか。
不安を抱えながらも、俺たちは会場に向かって歩き出した。
その時は、気づかなかった。
俺たちの後ろに、もう一人いたということを。
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